コラム

EVに次いで車載電池も敗戦?──ここぞという場面でブレーキを踏んでしまう日本企業

2022年07月20日(水)14時34分

ところが、2021年に中国ではEV販売台数が333万台、ヨーロッパでは260万台と、年間10万台以上販売するメーカーが何社も並び立ちうるような規模に市場が成長してきた。テスラは2020年に黒字転換を成し遂げたし、中国の新興EVメーカーの蔚来汽車(NIO)さえも2024年には黒字転換を見込んでいる(『21世紀経済報道』、2022年5月2日)。これまで赤字に耐えて続けてきたEV産業がいよいよ利益を生む段階にさしかかってきたのだ。いまこそEV事業にアクセルを踏み込み、生産規模を大幅に拡大すべき時である。しかし、日本の自動車メーカーの動きはきわめて鈍い。

この光景には見覚えがある。いまから15年前に太陽電池産業でまったく同じことが起きたのである(以下、丸川2013を参照)。

太陽光発電はいまでは風力発電と並ぶ再生可能エネルギーの柱となったが、その可能性を初めて世界に示したのは日本である。太陽電池はもともと人工衛星や僻地の灯台など、他からの送電が難しいような場所で電気を作るための手段でしかなかった。製造コストが高くて、とても他の発電手段に対抗できるようなものではなかったからだ。

かつて太陽電池で世界一を独走したシャープ

1994年にシャープが世界に先駆けて画期的な住宅用太陽光発電システムを発売した。一軒家の屋根の上に太陽電池を設置し、その家で使う電気を賄うとともに、余った電気を電力会社に売るものである。太陽電池の技術進歩により、屋根の上の太陽電池で家庭に必要な電気をおおむね賄うことができるばかりでなく、売電収入も得られる。私自身の体験によると、政府からの補助金(50万円)をいただき、かつ2009年から19年まではかなり高い価格で電力を買い取ってもらったこともあり、稼働17年で投資を回収できた。その後も発電は続いているので若干の利益が出ているようである。

こうして住宅用太陽光発電システムの市場が日本に生まれたことにより、シャープは太陽電池の生産量で世界のトップを独走し、京セラ、三洋電機、三菱電機なども後に続き、2005年までは世界のトップ5社のうち4社を日本企業が占めていた。

ただ、日本では2000年代に太陽光発電システムに対する補助金が次第に縮小されたため、2006年以降、市場規模が縮小した。一方、ヨーロッパではドイツが2000年に再生可能エネルギー法を制定し、電力会社に太陽光や風力で作られた電気を高い価格で買い取ることを義務付けたため、2004年頃から太陽光発電所への投資ブームが起きた。住宅用が中心だった日本とは違って、企業が事業として大規模な太陽光発電所を設置した。この波に乗ってドイツのQセルズや中国のサンテックなど、太陽電池生産を専門とする新興企業が次々と立ち上がってきた。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ミャンマー地震の死者1000人超に、タイの崩壊ビル

ビジネス

中国・EUの通商トップが会談、公平な競争条件を協議

ワールド

焦点:大混乱に陥る米国の漁業、トランプ政権が割当量

ワールド

トランプ氏、相互関税巡り交渉用意 医薬品への関税も
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 3
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中国・河南省で見つかった「異常な」埋葬文化
  • 4
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 5
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 6
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 7
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 8
    アルコール依存症を克服して「人生がカラフルなこと…
  • 9
    最古の記録が大幅更新? アルファベットの起源に驚…
  • 10
    最悪失明...目の健康を脅かす「2型糖尿病」が若い世…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 7
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 8
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 9
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 10
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story