企業に経済制裁を強要すべきではない
ロシアでアップル製品を扱う販売代理店は閉店したが(3月2日、オムスク) Alexey Malgavko- REUTERS
<ロシアの日系企業が日本の手先のように動くことを政府やメディアが強要すれば、ロシア政府から敵と見做され大きな禍根を残すことになりかねない。欧米企業は自社にも現地従業員にも痛みの少ない制裁を選んで行っていることに留意すべきだ>
ロシアがウクライナへの侵攻を始めてから9日間が経過し、ウクライナ側の犠牲者が日々増えている。ロシアは戦争を一日も早くやめ、撤兵するべきである。国際社会は国連の緊急特別会合を開催してロシアに即時・無条件の撤兵を求める決議を採択し、また各国がさまざまな経済制裁措置を打ち出し、国際機関は難民を支援している。ロシアに侵攻をやめさせるために利用可能なあらゆる非軍事的手段を動員することに私も賛成であるし、微力ながら支援もしている。
一方、気になるのは欧米の大手企業が自ら制裁を実行しはじめたことだ。アメリカの石油大手エクソンモービルは3月1日にサハリンでの天然ガス・原油採掘事業「サハリン1」の操業を停止するプロセスを開始したことを発表した。同社は声明の中で、この措置がロシアのウクライナ侵攻への抗議のためであることを言明している(ジェトロ「ビジネス短信」2022年3月2日)。また、アップルも3月2日にロシアですべての商品の販売を停止するとともに、ロシア国営メディアのRTとスプートニクのアプリをロシア以外では見られなくする措置をとった。アップルはロシアによるウクライナ侵略を深く憂慮するという声明を出しており、この措置がアップル独自の経済制裁であることを表明している(NBC News, March 2, 2022)。フォードもロシアでの商用車の合弁事業停止を発表したが、これもロシアの侵攻に抗議したものである。
「日本企業も対露制裁に加われ」の掛け声
ロシア侵攻の影響は日本企業のロシアでの事業にも及んでいる。トヨタはロシアの工場の稼働と日本からの完成車の輸出を3月4日から一時停止すると発表した。ただ、これは部品や完成車のロシアへの輸送に影響が出ているためだとしており、侵攻に抗議した行動であるとは説明していない。ホンダも自動車や二輪車のロシアへの輸出を停止するが、こちらも物流や金融の混乱が原因だとする(『日経クロステック』2022年3月3日)。筆者が新聞などで聞き及んだ限りでは、ロシアに抗議する意思をこめて事業を停止した日本企業はまだないようである。
このような日本企業の慎重な姿勢に対して、3月3日付の『日本経済新聞』は、欧米が政経一体となって脱ロシアを進めているなか、日本が「民主主義を守る闘いに加われるのか、覚悟が問われている」と、日本企業もロシアに対する経済制裁の輪に加わるよう勇ましく煽っている。
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