台湾産パイナップル、来年も買いますか?
ただ、そもそもの問題の発端である中国による台湾パイナップルの輸入停止が、果たして台湾にとって応援を必要とするほどの痛手なのかという疑問がある。台湾の年間のパイナップル生産量は42万トンで、輸出されるのはその1割にすぎない。そのため、台湾政府の農業委員会は中国の輸入停止が発表された当日には、「国内の消費を1割増やせば値崩れするようなことはない」と楽観的な見解を示していた(中央通訊社、2021年2月26日)。つまり現場に近い役所のレベルでは輸入停止は大した問題ではないとみていたものを、蔡総統が大げさに取り上げることで政治利用しようとした疑いがある。
また、そもそも台湾の中国に対する輸出額のうちパイナップルが占める割合は0.03%にすぎない(『日本経済新聞』2021年3月19日)。台湾経済にとってパイナップルの輸出はまったく微々たる存在でしかない。
となると、中国によるパイナップル輸出停止が台湾に対する政治的圧力であるという解釈にも疑問が生じてくる。たしかに、中国は輸入停止を外交的手段として使うことがある。たとえば、2012年に南シナ海のスカボロー礁でフィリピン海軍と中国の海洋監視船のにらみ合いが起きた時、中国は検疫上の理由をつけてフィリピン産バナナの輸入を一時停止した。この時は原因(にらみ合い)と結果(輸入停止)の関係がはっきりわかったが、今回は、スカボロー礁におけるにらみ合いに相当するような事件が何も思い当たらない。中国が蔡英文政権を快く思っていないことは間違いないが、圧力をかける原因となる事件がないと、圧力としての意味は生じないであろう。
また、圧力としての効果を出すには、その輸出品が相手国にとってある程度重要なものである必要がある。実際、フィリピンにとってバナナは重要な輸出品であるが、今回の輸出停止の対象であるパイナップルの輸出は台湾にとって全く重要ではない。となると、圧力としての効果も期待できない。
今回の台湾産パイナップル問題について詳しく論じた早田健文・本田善彦両氏による「台湾パイナップル輸出が大幅減」『台湾通信Webradio』2021年8月14日によると、台湾では、中国がパイナップルに続いていろいろな台湾産農産品の輸入を停止してくるのではないかという不安が高まったそうである。もし輸出停止が他の農産品に広がるようであれば、政治的圧力にもなりえたであろうが、結局輸入停止はパイナップルのみにとどまった。
早田・本田両氏の番組によると、中国は馬英九政権時代に台湾からの農産品の輸入を幅広く認めるようになり、検疫においても台湾産品を他国からの輸入に比べてかなり緩めた。しかし、コナカイガラムシなど病害虫の問題が目立ってきたため、台湾からの輸入果物に対する検疫を一般の外国からの輸入並みに強めた結果が今回の輸入一時停止であるという。
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