コラム

台湾産パイナップル、来年も買いますか?

2021年08月24日(火)07時27分
蔡英文

中国の輸入停止を食った台湾産パイナップルを売り込む蔡英文(3月3日、台北) Ben Blanchard-REUTERS

<この春、中国が害虫を理由として台湾産のパイナップルを輸入停止にしたとき、蔡英文は大々的に抗議し、日本でも台湾を助けようと多くの人が台湾のパイナップルを買った。あの騒動は結局、何だったのか>

今年2月26日、中国の税関は台湾からのパイナップルの輸入を3月1日をもって暫時停止すると発表した。その理由として中国税関は、昨年来、台湾から輸入されたパイナップルにコナカイガラムシ(学名でいうと、Planococcus minor、Dysmicoccus neobrevipes、Melanaspis smilacisなどだそうである)が検出される事件が多発したことを挙げた。

これに激しく反発したのが台湾の蔡英文総統である。中国による輸入停止措置は言いがかりであり、政治的圧力であって、断じて屈しないと言明した。そして総統自ら台湾南部の産地に乗り込み、政府が買い支えるから農家の皆さんは安心してくださいと訴えた(『日本経済新聞』2021年3月19日)。

この騒ぎは日本にもすぐに伝わった。SNSで「台湾産パイナップルを買って、中国にいじめられている台湾を応援しよう」というメッセージが盛んに発せられた。そして間もなく、筆者がいつも利用しているスーパーの店頭にも台湾産パイナップルが並ぶようになった。果物屋では、台湾産パイナップルの値札の上に「台湾加油(がんばれ)!」とポップまで現れた。日本の一般市民の間でも、中国と台湾が何やらもめており、パイナップルを買えば台湾を支援できるとの見方が広まったようである。

台湾のためなら虫も気にならない?

だが、中国の税関の発表を額面通りに受け取るならば、これは、中国が「虫がついているからいらない」といったパイナップルを日本で引き受けて食べようという話である。日本の消費者は食の安全性に対する意識が高く、とりわけ海外からの輸入品には厳しい目を注いでいるのだと思っていたが、相手が台湾となると話が別のようだ。台湾が可愛いから「あばたもえくぼ」に見え、コナカイガラムシも粉砂糖に見えるらしい。あるいは、害虫がいるという中国税関の発表などはなからウソに決まっていると思っていたのだろう。

ちなみに、コナカイガラムシは人体に悪影響を与えるものではないが、植物にとりついて生育に悪影響を与える害虫である。

さて、日本の一般のスーパーや果物屋にまで及んだ台湾応援の動きはどれくらいの成果を挙げたのであろうか。その答えが先ごろ発表された台湾の貿易統計から明らかになった。

台湾パイナップルの輸出のピークは3月から5月までだが、表では今年1月から7月までの輸出を合計して昨年の同期と比較している。

taiwanpineappledhart.jpeg

中国への輸出は昨年には4万トン近くあったのが、今年1~7月には3682トンへ9割以上も減り、やはり輸入停止の影響は大きい。日本への輸出は逆に8倍以上に伸びている。また、事情はよく分からないが香港への輸出も6倍以上に伸びている。なお、中国、日本、香港以外への輸出は少ない。

これによると、日本による輸入の拡大は中国の輸入減少をある程度補う効果はあったものの、全体としては台湾のパイナップル輸出は1万5000トンほど減ってしまった。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

相互関税は即時発効、トランプ氏が2日発表後=ホワイ

ワールド

バンス氏、「融和」示すイタリア訪問を計画 2月下旬

ワールド

米・エジプト首脳が電話会談、ガザ問題など協議

ワールド

米、中国軍事演習を批判 台湾海峡の一方的な現状変更
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 9
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story