コラム

新疆の人権状況を改善するにはどうしたらよいのか?

2021年04月20日(火)19時20分

新疆の民族別人口比率は1985年から2013年まできわめて安定していた。ウイグル族は常に自治区の総人口の46~47%、漢族は常に38~40%であった。これはかなり不思議なことだ。この間、内地の甘粛省や河南省などから相当数の移民が新疆に流入したので漢族は社会増が多かったはずである。一方、ウイグル族は漢族よりも出生制限が緩かったので自然増が多かったはずである。かたや社会増、かたや自然増が優勢なのに、結果的には両者が奇妙なほどバランスしている。この背景で強引な人口の調整が行われた可能性が疑われる。

また、のべ100万人ともいわれる大勢のウイグル族の人々が「再教育」施設に入れられたことについては多くの証言がある。先週のNHKの報道によれば、日本に留学経験のある知識人9人が家族にも行方を告げず消息不明になっている(NHK World, 2021)。誰も居場所がわからないのでは、「職業訓練のために再教育センターに行っている」という中国政府の説明が納得できるわけもなく、裁判を経ない拘留や投獄が行われている可能性が高い。

新疆の憂慮すべき人権状況に対して我々には何ができるであろうか。

欧米諸国は人権抑圧の責任者とされる人々を入国禁止にしたり、一部の新疆製品の輸入を禁止するなどの制裁に踏み切っている。だが、制裁や圧力に対して中国は内政干渉だと反発するばかりで人権状況が改善する道筋が見えない。

中国政府を人権状況の改善に取り組ませるには

人権後進国の中国は人権先進国の言うことを聞けとばかりに高飛車に迫るのでは問題は全く改善しないと思う。そう言われれば中国政府の側だって「そういうお前のところの黒人差別問題はどうなんだ」と反発したくなるであろう。

中国政府は新疆の人権状況に対する批判を、自身の支配の正統性自体を否定されていると邪推して批判を受け付けようとしない。中国が統治する新疆の人権状況を改善するには、中国政府にその気になってもらう以外にない。現在のきわめて険悪化した米中および日中の関係では難しいとは思うが、環境が許せば「人権対話」を試みるべきだと思う。

先進国だって人種差別、ヘイトスピーチやヘイトクライム、女性差別などさまざまな人権問題を抱えており、人権が完全に守られている国などどこにも存在しない。しかし、今日のグローバル化した世界では、人権弾圧を逃れて他国に来る人がいたり、サプライチェーンが国を跨いでつながっているので、他国の人権状況にも関心を持たざるをえず、自国の人権問題のことだけ考えていればいいというわけにはいかない。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story