マイナンバーの活用はインドに学べ
インドのマイナンバーであるアダールの場合、登録はあくまで任意であるものの、2010年に登録が始まってから2018年末までの間に全人口の92.2%に当たる12.3億人が登録済みだという(岩崎薫里「India Stack:インドのデジタル化促進策にみる日本のマイナンバー制度への示唆」『環太平洋ビジネス情報 RIM』Vol.19 No.75, 2019年)。日本のマイナンバーカードがいっこうに普及せず、マイナンバー制度も国民にはなんらのメリットもなく、いたずらに手間ばかり増やしているのは、いったいなぜなのかを考えるうえで、インドのアダールの事例は非常に参考になる。
問題の根本原因の第一は、日本政府がマイナンバーの意味について国民に納得させることができていないことである。
マイナンバーの意味、それは国民一人一人に固有の名前を与え、他の人から区別することである。通常の名前、すなわち戸籍に書かれている姓名は個人と必ずしも1対1で対応していないので、個人を他人から区別するうえで不便である。まず、世の中には同姓同名の人がかなりいる。また、人の姓名が結婚やその他の理由によって変わることもある。姓名だけでは個人を特定できないので、従来は住所や本籍地の情報も合わせることで特定していたが、住所や本籍地ももちろん変わりうる。マイナンバーは一生一人の人について回り、他人と同じになることもない、いわばデジタルの名前であり、これがあれば今後は戸籍謄本や住民票を出す場面がかなり減るはずである。
犯罪容疑者もマイナンバーで
中国やインドのように人口がとても多い国の場合、第2の名前としてマイナンバーが必要なのだということが理解されやすい。たとえば中国で犯罪容疑者のことが報道されるとき、「劉某、身分証番号〇×△」と書かれることが多い。同姓同名の人が下手すると何万人もいるので、姓名を書くと、大勢の関係ない人々が犯罪人だと思われてしまう。姓と身分証番号の一部のほうが、より高い精度で特定個人を指し示すことができるのである。
マイナンバーは特定の個人と1対1で対応していないとならないが、悪い人が他人のマイナンバーを盗用して特別定額給付金を何度も受け取るということができそうである。それを防ぐためには、個人とマイナンバーとを結び付けるなんらかの証拠が必要である。
この場合の個人とは、よどみに浮かぶうたかたのように、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたることのない無常なものではなく、生きている間は確固として同一性を保つものと前提されている。だが人間の属性のなかで無常でないものとは何だろうか。
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