コラム

マイナンバーの活用はインドに学べ

2020年11月27日(金)21時18分

日本のマイナンバーカードは精神の同一性が保たれることを前提とする制度になっている。すなわち、登録時に設定したパスワードを入力させることで本人だと確認することになっている。しかし、パスワードをメモしておいたらそれを盗まれるかもしれないし、本人がメモをなくして忘れてしまうかもしれない。日本のような超高齢社会において国民が生涯パスワードを記憶し続けると前提するのは相当な無理がある。

一方、マイナンバーの本人確認書類として運転免許証やパスポートのコピーを提出させるのは、顔(写真)によって同一性を確かめようとしているわけだが、顔はある意味最も無常を感じるものであるし、顔写真をすげかえられてしまうおそれもある。

しかし、それでも顔などの身体の同一性以上に人間の同一性の証拠となりうるものはないと思う。インドのアダールの場合、登録するときに顔写真、10指の指紋、目の虹彩も登録される(岩崎、前掲論文)。顔だけでなく、いくつもの身体的特徴を手がかりとすることで人間の同一性を確認しているのである。

利用機会が滅多にない

日本でマイナンバーが広まらない第二の原因は、政府自身がマイナンバーを社会で役立てる道を封じているためである。すなわち、日本では法律によってマイナンバーの用途が社会保障、税、災害対策の3つに限定されている。さまざまな団体や出版社が私にマイナンバーの提供を求めてきたが、それは税務署への申告にのみ用いることができるのであって、団体や出版社が集めたマイナンバーを取引先名簿に入力したりしたら法律違反である。

私は学会の名簿作りを手伝ったこともあるが、姓名やその読み仮名を正しく入力しないと同一人物が名簿で複数箇所に出てくることになったりして面倒なことになる。名簿に会員のマイナンバーも入力しておけば、そうした重複を簡単に見つけ出して名簿作りの効率が上がるかもしれない。しかし、学会が会員のマイナンバーを集めたり、それを名簿作成に利用することも違法である。

要するに日本ではマイナンバーを政府以外で活用することは禁止されているのである。そのため、上記3つの用途以外の目的でマイナンバーカードの裏側をコピーすることも違法である。マイナンバーカードの表には顔写真、姓名などが印刷され、裏にはマイナンバーが印字されており、表側だけならコピーしていいことになっている。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国経済運営は積極財政維持、中央経済工作会議 国内

ビジネス

スイス中銀、ゼロ金利を維持 米関税引き下げで経済見

ビジネス

EU理事会と欧州議会、外国直接投資の審査規則で暫定

ワールド

ノーベル平和賞のマチャド氏、「ベネズエラに賞持ち帰
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア空軍の専門家。NATO軍のプロフェッショナルな対応と大違い
  • 2
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎の物体」の姿にSNS震撼...驚くべき「正体」とは?
  • 3
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡大、そもそもの「停戦合意」の効果にも疑問符
  • 4
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 5
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキン…
  • 6
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    「正直すぎる」「私もそうだった...」初めて牡蠣を食…
  • 10
    「安全装置は全て破壊されていた...」監視役を失った…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story