コラム

中国は38分で配布完了!? コロナ給付金支払いに見る彼我の差

2020年06月19日(金)14時50分

所得の補償に重きを置いた日本の給付金に対し、中国はダイレクトに消費を喚起しようとした(写真は5月24日、北京のショッピングセンター) Florence Lo-REUTERS

<新型コロナ給付金の支払い方に見る、日中の発想、テクノロジー、スピード、経済効果の違い>

日本では新型コロナウイルスへの感染者が1日に50人程度以下という状態が5月中旬より続いている。6月19日からは県境をまたぐ移動制限も解除された。緊急事態宣言も5月25日に解除された。そろそろ経済活動を本格的に再開し、コロナ禍で落ち込んだ経済の回復に取り組んでいかなくてはならない。

中国は3月半ばには国内での感染をほぼ抑え込んだ。その後は主に外国からの帰国者やその接触者が感染する時期が1カ月ほどあったが、その波も4月半ばには収まり、それ以来経済の再起動が課題になっている。6月11日から16日の間に北京で新たに137人もの感染者が見つかってにわかに緊張感が高まったが、経済回復の基調には変化ないであろう。

今回は中国で3月下旬から消費を刺激するために配られた「消費券」について紹介し、それとの対比によって日本の経済対策の課題を明らかにしたい。

38分で配布終えた消費券

消費券とは、買い物の金額を割り引いてくれるクーポンである。杭州市の場合、スマホで決済アプリ「アリペイ」を起動し、「杭州消費券」というボタンをポチッと押すだけで、杭州市にいる人は誰でも受け取ることができる。40元以上の買い物をしたら10元割引してもらえる券が5枚セットになっていて、杭州市の実店舗のほとんどで使うことができる。ただし、使える期間は券の配布が始まってから1週間以内と限定されているので、もらったらすぐに使わなくてはならない。3月27日午前8時から消費券の第1弾として200万セットがオンラインで早い者勝ちで配布され、38分で配布が終わった。

杭州市では3月27日の第1弾から4月20日の第5弾まで総計で880万セットの消費券が配布され、毎回短時間のうちに配布が終わった。消費券を受け取った人は有効期間内に平均で3.51枚の券を使ったという。1枚使用されるたびに杭州市政府がお店に10元の補助を出すので、杭州市では消費券を受け取った人1人あたり35.1元(526円)の補助が行われ、受け取った人は124.6元(1869円)の消費を行った。つまり、杭州市全体で3億元(45億円)弱の補助を行うことで、10.6億元(159億円)の消費支出を喚起したことになる。

5月8日までに全国170余りの都市で杭州市と同様の「消費券」が配布され、その額は総計で190億円(2850億円)であった。ほとんどの都市では杭州市と同じく買い物をしたらその金額の1〜2割を地方政府が補助するクーポンの形式をとっている。日本の商品券のように、自分でお金を足さなくてもそのまま現金の代わりに使える券を出した都市は3か所のみだった。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story