コラム

中国経済のV字回復は始まっている

2020年04月19日(日)18時58分

中国での新型肺炎の広まりについてこれまで的確な見通しを示してきた鍾南山氏によれば4月いっぱいで中国での感染は終息するだろうという。そこで、5月から12月はもともと予想されていた年率5.8%まで成長率が回復するとしよう。すると2020年を通してのGDP成長率は2.6%と推測できる。これが現時点で望みうる最良のシナリオである。4月初めに発表されたアジア開発銀行の予測は2.3%で、この最良シナリオに近い数字を示している。

しかし、世界では欧米や日本やインドなどが目下コロナ禍と戦っている最中で、これがいつ終息するか見通せないため、実際の成長率は最良シナリオに届かない可能性が高い。冒頭でふれた日本総研のエコノミストと日経の記者がいずれもV字回復は期待できないというのも欧米への輸出が止まることを理由に挙げている。

中国はもう輸出頼りではない

しかし、こうした予測は中国経済が欧米への輸出に依存しているというすでに時代遅れになった認識に基づいている。実際は2010年以降、純輸出の動向が中国経済の成長率に与える影響はかなり小さくなっている。今年の場合、仮に輸出が最悪の展開で推移したとしても中国の内需さえ回復すれば、中国経済全体としてはなんとかプラス成長になる可能性がある。

つまり、1~3月は輸出がマイナス11.4%だったが、仮にこの状態が2020年を通して続くとすると、純輸出は前年の2.9兆元から4000億元ぐらいに減る。その場合、中国のGDP成長率は2.5ポイントほど押し下げられることになる。しかし、内需が回復する最良シナリオが2.6%なので、そこから2.5ポイントを引いてもGDP成長率はプラス0.1%になる。2020年に欧米や日本がマイナス成長になるのはほぼ間違いないので、リーマンショックの時と同様に、中国経済がまたもや世界経済を最悪の落ち込みから救うような役割を果たす可能性がある。

さらに、中国から欧米などへの輸出が大幅に減らない可能性もある。欧米でも日本でも人々が外出を避けるなかでモノに対する需要が減るのは間違いない。しかし同時に欧米と日本のモノの生産も減っているはずである。いま中国にマスクや人工呼吸器の注文が殺到していることが示すようにむしろ中国の供給力が頼みの製品も多い。欧米や日本での需要の減少分ほどには中国からの輸出は減らないのではないだろうか。

いずれにせよ、今後このコロナ禍がどう展開するかは予測しがたい面が多い。海外での流行が中国国内に波及し、中国が第2、第3の感染爆発に見舞われる可能性もないとはいえない。そうなるとV字回復どころではなくなってしまう。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 10
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story