コラム

武漢の危機を悪化させる官僚主義

2020年01月29日(水)16時45分

1月25日にSNSに投稿された写真。武漢の病院で防護服姿の医者が患者を診ている THE CENTRAL HOSPITAL OF WUHAN VIA WEIBO /REUTERS

<新型コロナウイルスの発生源で封鎖中の武漢。人々は日々の買い物にも困り、医者の防護服も足りないのに、国内外から届く支援物資は武漢市の外に積まれたまま。武漢在住経済学者が嘆く惨状はどこからくるのか>

中国・武漢で発生した新型コロナウィルスによる肺炎の患者数は1月29日午前0時までの時点で中国全土に5974人、うち死者は132人となっている。習近平国家主席が新型肺炎の拡散防止に全力で当たれとの指示を出し、李克強首相が新型肺炎対策を話し合う国務院常務会議を開いた1月20日時点で確認されていた患者数はまだ224人だった。事態は思っていた以上に深刻であり、この勢いでは2003年に世界で8000人余りの患者が出たSARSを上回る可能性がある。

発生源の武漢市では2000人近くが新型肺炎と診断され、うち104人が亡くなっている。武漢市では感染の拡大を防ぐために都市を封鎖し、公共交通機関の運行を停止した。その武漢市の状況を伝える文章を知人が微信にアップロードしていたので、それを紹介する。執筆者は武漢市の経済学者で、いま救援物資の手配にあたっている万喆氏である。

万氏がまず指摘するのは医療従事者の防護服の不足である。医師たちはウイルス感染を防ぐために防護服を着用する必要があるが、数が不足しているため、使用期限が過ぎた防護服を着続けたり、紫外線に当てて消毒して再利用するといったことで済ませているという。医療用の防護服がないので、他の防護服で間に合わせているような医師もいる。

救援物資が市内に入れない

実は中国各地や国外から防護服など多くの救援物資が届けられているのだが、それらは封鎖された武漢市の外に積まれたままで、市内になかなか入ってこない。トラックが足りないとか道路が使えないということではなく、現場の担当者が、政府の指示がないと市内への搬入を許可できないといって入れさせないのである。

武漢市政府は新型肺炎対策本部を設置し、その第1号通達として1月23日未明に市内の公共交通の運行停止、空港や鉄道駅の閉鎖を指示した。これによって市民の流動を止めたうえで、翌24日午後には、住宅団地などで発熱のある人々を検査し、病院で詳しく検査したり入院したりする必要のある人を仕分けることにした。しかし、これらの通達が突然出てきたため、それまで比較的落ち着いていた市民がパニックを起こし、病院の発熱外来に押しかける騒ぎとなってしまった。

対策本部はまた、一般の乗用車の武漢市中心部への乗り入れを禁止し、滴滴(ディーディー)などのライドシェアも禁止する一方、タクシーにのみ限定的に市内の通行を許可している。対策本部は各住宅団地にタクシーを3~5台ずつ割り当てて、市民の買い物や通院に使わせているが、これでは277世帯あたりにタクシー1台しか移動手段がないことになり、移動手段が大変不足している。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

パウエルFRB議長、早期退任改めて否定 「任期全う

ビジネス

トランプ氏、TikTok米事業売却期限をさらに75

ワールド

グリーンランドはデンマーク領であること望まず=米国

ビジネス

中国が報復措置、全ての米国製品に34%の追加関税 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 9
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 10
    5万年以上も前の人類最古の「物語の絵」...何が描か…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story