武漢の危機を悪化させる官僚主義
現場で医療にあたる医師や看護師の生活状況も悪化しており、一日にカップラーメン1杯しか食べられないとか、トイレに行く時間がないので大人用オムツを履いて医療にあたっている医師もいるという。
中国各地から医療救援隊が武漢に到着していて、医師の数は増えているが、その食事を手配する態勢が整わない。病院周辺のレストランに連絡して医師や看護師たちの食事を作ってもらっても、食事を車で届けることが許可されないのである。
武漢には海外からの救援物資も続々と到着し、税関は速やかな通関に務めているが、受け入れを担当する武漢赤十字会と湖北慈善総会が市政府の決定がないと受け入れられないといって受け入れを渋っている。
中国の他地域の人々のなかには武漢市民がパニックに陥っていることを非難する向きもあるが、武漢市民は詳しい情報を知らされないまま、突然移動手段を奪われて、慌てるのも仕方ないではないかと万氏は言う。市内の各病院における医師や看護師の状況、病人や病床の状況、医療物資の状況を逐次把握して、スタッフや物資の適切な配分を行うとともに、その情報を市民に公開することが肝要だと万氏は主張する。
情報不足が危機を増幅
以上が万氏の文章の内容であるが、武漢市政府がどうしようもなくトップダウンの組織で、現場の職員たちが上級の指示待ち体質であること、そして市政府から出される情報があまりに少ないことにより、武漢市の危機が増幅されていることがわかる。感染が急拡大し、患者が増え続けるなかで、医療従事者が使う防護服を届けなければならないことなど誰でも理解できるはずであるが、上級の指示がなくては何も動かないトップダウン体質が武漢の状況を悪化させている。
そもそも新型肺炎に関する情報の公開が遅れ、感染の拡大を招いたのも武漢市政府の指示待ち体質が原因であることが、1月27日の中国中央テレビによる武漢市市長へのインタビューで明らかになった。市長はインタビューのなかで次のように語った。
「情報公開が遅れたことについては皆さんにご理解いただかなくてはなりません。伝染病は伝染病防止法に基づき、法の定める手続きによって情報を公開することになっているのです。地方政府としては(新型肺炎の)情報を得ても、中央から権限を与えられて初めて情報を公開できるのです。1月20日に国務院の常務会議が開かれて、この肺炎はBクラスの伝染病だが、Aクラスの伝染病として扱い、地方で対策に責任を負うことが求められたので、わが市もより主体的に取り組めるようになりました。」
ちなみにAクラスの伝染病とはペストとコレラのみ、Bクラスの伝染病には新型コロナウィルスによる肺炎、SARS、狂犬病、はしか、デング熱、マラリアなど多数の伝染病が含まれている。Aクラスの伝染病の場合には、今回武漢市が行ったように流行地域からの人々の出入りを制限するといった措置をとることが可能になる。
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