GDP粉飾疑惑を追う
さて、天津市に話を戻すと、天津市も財政状況が厳しいので、もし経済統計の粉飾があればそれを是正して窮状を訴えたいところであろう。天津市の地方財政は2015年から赤字に転落し、天津市も中央からの財政補助を求める立場になった。
中国の各地域のうち地方財政が黒字なのは、広東省、上海市、北京市、浙江省、江蘇省、福建省で、これらから上納される黒字によって残りの25の省の赤字が埋められている。天津市の財政の窮状と一人あたりGDPが全国トップという数字とはどう考えても両立しそうにない。
天津市は公式には粉飾の存在をいまだ認めていないが、実際には2016年から水増しを少しずつ是正しはじめたようである。まず2016年には、図にみるように天津市は一人あたりGDP全国トップの座を北京市、上海市に譲った。
天津市の一人あたりGDPはこの年も7.5%という高い伸びを示し、伸び率は北京市、上海市を上回っているのに、なぜか首位陥落である。それは水増し分をこっそりと少しだけ減らしたからだ。
また、2017年1~11月の天津市の一般歳入は前年同期に比べて実質でマイナス3.1%だったが、実額は12.5%も減っている。これは前の年の歳入が10%ほど水増しされていたことを意味する。このことからGDPも1割ぐらい水増しされていると推測できる。
さらに2017年の天津市のGDP成長率は全国で最低の3.6%と発表された。2018年の目標も5%と、きわめて抑制されたものになった。過去のことはともかく、少なくとも今後は、水増しの原因である高成長の追求をやめ、実力相応の成長率を目指すことになった(『21世紀経済報道』2018年1月25日)。
地方政府が粉飾を認めるようになった背景として、2019年からGDPの統計の作成方法が変わるとアナウンスされていることもある。これまでは各省のGDPは、省政府傘下の統計局が算出してきたが、2019年から国家統計局が主導してGDPの計算を行うことになる(『21世紀経済報道』2018年1月19日)。
国が集計すれば正確になるのか
それまでに粉飾を減らしておかなければ、国家統計局に統計作成の主導権が移る2019年に粉飾を暴かれて面目を失うことになる。
実は、GDPの計算を各省政府に勝手にやらせず、中央の国家統計局が統一的に行うという話は2014年1月の段階ですでに出ており、国家統計局は2015年から実施すると意気込んでいた(『21世紀経済報道』2014年1月9日)。
この話は結局4年間先送りになったわけだが、それでも地方政府に水増しを自粛させる抑止効果があったようである。
図2では国家統計局が発表する中国全体のGDPと、各省が発表するGDPを合計した額とを比べているが、両者の差は2012年までは急速に拡大して、2012年には後者が前者を11%も上回っている。つまりこのころ水増しがもっとも盛んだったのである。
だが、国家統計局が各省のGDP計算を統一的に行うとアナウンスした2014年には乖離率が顕著に下がり、その後も下がり続けている。2016年の乖離率は3.7%で、これは日本全体のGDPと都道府県のGDPの合計の乖離率よりも小さい。
それでも天津市の例が示すようにまだ粉飾は残っているようだ。GDPの粉飾は、究極的には過度の政治的集権や言論の自由の欠如がもたらすものである。国家統計局が地方の統計も作成すれば問題がなくなるというものではない。というのは国家統計局の中立性・独立性も保証されていないからである。
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