GDP粉飾疑惑を追う
では天津市全体のGDPはどうなるのかというと、もともと市のGDPを計算する際にはダブルカウントの部分は除いているので、濱海新区のGDPが激減したからといって市のGDPが減るということにならない、というのである。
こうしたダブルカウントはGDPの計算について回る問題である。
実は日本でも、都道府県のGDPの合計は、日本全体のGDPを6%ほど上回っている。これは別に日本の都道府県がGDPを水増ししているからではない。本社は東京だが工場や販売店は別の県にあるような企業の生産活動が、東京と別の県の両方のGDPに、部分的にせよ算入されているからであろう。
結局、蓋を開けてみたら、天津市は粉飾を認めたわけではなく、単なるテクニカルな修正を行っただけで、天津のGDPに対するモヤモヤした疑念は晴れないままである。
天津市も粉飾を認めるのではと期待してしまったのは、2017年初めに遼寧省が経済統計の水増しがあったことを認めたからである。
遼寧省政府の報告によれば、省内において財政収入の粉飾が特に2011年から2014年にかけて甚だしくなり、そのため、中央政府からの財政補助が十分にもらえず、省内の市や県の財政が苦しくなってきた。財政収入だけでなく、他の経済統計にも粉飾の問題があった。
2割も水増ししていた遼寧省
要するに、地方財政の台所事情が苦しくなってきたので、正直なデータを公表することで中央政府からの財政補助を増やしてもらおうとの打算から経済統計を修正しはじめたのである(『日本経済新聞』2018年2月2日)。
遼寧省は2017年初めに2016年のGDPを発表したが、その実額は前年より23%も減少した。GDPの実質成長率はマイナス2.5%だったので、GDPに2割ぐらいの水増しがあったことを認めたことになる。
遼寧省と同様の動機から、内モンゴル自治区も2018年1月に財政収入と工業付加価値額に水増しがあったことを認め、2016年の地方財政の一般歳入がこれまで公表されていた金額より26%少なかったと訂正した(金融頭条、2018年1月16日)。2017年のGDPの実額は明らかではないが、おそらくかなりの水増し分が圧縮されるであろう。
遼寧省が粉飾を明るみにしたことで、その下にある各市も水増しの是正を余儀なくされた。大連市はその是正作業にかなり手間取ったようで、ようやく2017年11月末になって2016年のGDPを発表した。
その金額は2015年より12%の減少であったが、実質では6.5%成長したという。ということは、2015年の数字には17%ぐらいの水増しがあったことになる。
ただ、大連市の発表には依然粉飾の匂いがする。それはGDPが実質6.5%成長したという部分だ。遼寧省全体がマイナス2.5%、遼寧省経済の3割を占める大連市がプラス6.5%となると、大連市以外の遼寧省はマイナス6%だったことになる。まさにあちら立てればこちら立たず。粉飾をちょっとだけ訂正したら他のところに矛盾が生じる。
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