EVシフトの先に見える自動車産業の激変
北京市内を走るGofunのシェア自動車。奇瑞のEVを使っている Tomoo Marukawa
<中国では自転車シェアリングの成功に刺激されて、自動車シェアリングにも多くの企業が参入している。しかもそこで使われているクルマの9割が電気自動車(EV)だ。シェア自動車とEVが組み合わされば、自動車産業のあり方を根底から覆す>
──この記事は、電気自動車(EV)戦略についての考察の後編です。前編は「中国は電気自動車(EV)に舵を切った。日本の戦略は?」へ
電気自動車(EV)の最大の欠点は充電に時間がかかることである。家庭でフルに充電するには8時間、充電スタンドで「急速充電」しても40分かかる。ホンダが先だって15分で急速充電できるEVを2022年に発売すると宣言したが、それでも1分ほどで満タンになるガソリンエンジン自動車には遠く及ばない。現状では充電スタンドが少ないのも心配だが、これはEVが普及すれば自ずから解決されるだろう。しかし、充電時間は技術進歩なくしては短縮できない。
だが、もしクルマに乗りたいと思ったときに、充電されたEVが手近なところにあったらどうだろうか。乗りたいところまで行って、そこで乗り捨てる。帰りにも乗りたければ、また手近なところにあるEVに乗って帰る。充電のことを気にしなくて済むようになればEVの欠点は欠点ではなくなる。
世界に広がる自動車シェアリング
中国で2016年秋ぐらいから急速に広まった自転車シェアリングサービスは、「乗りたいときに借り、用が終わったら乗り捨てる」ということが実現可能であることを示した。同じ仕組みを自動車で実現しようとしている企業もある。ダイムラーはベルリンなど世界の25都市でcar2goという自動車シェアのサービスを行っている。街に停めてあるシェア自動車をスマホで見つけ、借りる手続きはスマホ上で行う。使い終わったら適当なところに停めれば返却完了。ドイツの都市は東京と違って自由に停められる駐車スペースが多いから、そういうところに停めておけばよい。ベルリンではcar2goのシェア自動車がすでに1100台ばら撒かれているという。
中国でも今年8月時点で31社の企業が自動車シェアを展開し、全国で3万台のシェア自動車がばら撒かれている。なかでも北京のタクシー会社が始めたGofun出行は、北京に1万台余りのクルマを配置している。中国の自動車シェアの特徴は、使っているクルマの9割がEV、それも中国メーカーのEVであることである(『21世紀経済報道』2017年8月22日、9月8日)。EVを使っているので、どこにでも乗り捨て可能というわけでなく、充電スタンドのある場所に返却しなければならない。
自動車シェアリングはまだ中国でもドイツでも交通のあり方を変えるには至っていないが、中国では今後急速に伸びて2020年には全国で17万台が配置されるだろうとの予測もある。強気の予測の背景には、北京、上海、深センなどの大都市では自動車を保有したくても規制のため保有できない人が多いことがある。中国の大都市では自動車の総量規制が行われていて、抽選に当たらないとクルマを持てない。いまや長春や大連のような中規模の都市でも街にクルマが多すぎて大変なことになっているので、規制が導入されるのは時間の問題だと思う。抽選に当たらず車が持てない人がクルマを運転したいと思った時、自動車シェアリングが役に立つ。
【参考記事】自転車シェアリングが中国で成功し、日本で失敗する理由
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