コラム

自転車シェアリング--放置か、法治か?

2017年04月27日(木)16時00分

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東京・江戸川橋に配置されたドコモ・バイクシェアの自転車 Tomoo Marukawa

日本の自転車シェアリングはどうだろうか。本稿を書くために、ドコモ・バイクシェアを利用してみた。事前に名前、クレジットカード、メールアドレスなどを登録する必要があるが、その作業は簡単だ。自転車は都内6区に215か所あるポートに停められており、そこまで行って解錠して利用し、どこかのポートに止めて返却の操作をすれば利用終了である。利用する自転車は電動アシストつきなので坂の多い東京でも楽に乗ることができる。二度にわたってのべ1時間半ほど利用して料金は432円だった。同じルートを地下鉄で行く場合に比べて若干高いものの、歩く距離が短くなるので得した気分である。特に自転車に乗りたくなるような日和に都心を自転車で走るのは爽快だ。

ただ、自転車シェアリングが東京で普及しているかというと、現状ではまだ利用者は少ない。私が文京区から港区南青山まで1時間ほど走る間、数多くの自転車とすれ違ったが、そのうち自転車シェアリングを利用していた仲間はわずか2台だった。これではビジネスとして成り立たせるのは至難の業であろう。

利便性の違い

東京で普及しない理由を利用者としての視線から考えてみると、シェアリング用自転車が置いてある場所を見つけにくいのが最大の難点である。都内6区で215か所というのは、街を歩いていれば目に飛び込んでくるというほどの数ではなく、あらかじめネットで調べておかないと見つけられない。苦労したのが返却場所探しであった。あらかじめ目的地を決めていたものの、大まかな場所を頭に入れておいただけだったので、現地でスマホ片手に探し回る始末となった。中国の自転車シェアリングのように行きたいところまで乗って行ってそのまま放置していいのだったら便利だろう。

こうした利便性の差から、片や東京では自転車シェアリングまだ「実証実験」にとどまり、片や中国ではすでに民間企業によるビジネスとして営まれている。中国では最大手のMobike(摩拝単車)、ofo(共享単車)を筆頭に、すでに34社の企業が参入し、30以上の都市で総計200万台のシェアリング用自転車が投入されている。利用登録している人の数は2015年には245万人、16年には1886万人、17年末には5000万人を超えるのではと言われている(『北京商報』2017年3月27日)。つまり、一都市あたり7万台ぐらいのシェアリング用自転車が配置されている計算になる。一方、ドコモ・バイクシェアの方は都内6区で1000~1500台の規模だと推定される。なるほど目に飛び込んでくる数が違うわけだ。

【参考記事】ママチャリが歩道を走る日本は「自転車先進国」になれるか

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

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