日本も新常態(ニューノーマル)を認識すべきだ
こうした議論をすると、国民や政治家から次のような反論が返ってきそうである。「『潜在成長率』なんて訳の分からない数字が日本経済の実力だなんて言われて誰が納得できるか! 国民が好況を実感できないことこそが問題であり、政治はそこを何とかすべきじゃないか!」
実は国民が実感できるバロメーターのなかに、実際のGDP成長率が潜在成長率を上回っているか下回っているかを敏感に反映するものがある。それは有効求人倍率である。図をよく見てみると、GDP成長率が潜在成長率を上回っている年は有効求人倍率が前年に比べて上昇し、下回っている年は下降している。好況が続くと、有効求人倍率がどんどん上がっていく。バブル期の最後には有効求人倍率が1.4倍、すなわち1人の求職者に対して1.4件の求人があった。好況の実感がなかったという「戦後最長の景気拡大期」にも有効求人倍率が上昇し続けており、好況だったことが確かめられる。
その有効求人倍率が2010年からずっと上昇を続けている。2016年12月には1.43倍と、バブル期の最後を上回る水準にまで来ている。これを見ると現在はバブル末期並みの景気過熱ということになる。
好況なのにマクロ政策は「景気超悪い」モード
内閣府の今年1月の月例経済報告における見立ては「景気は、一部に改善の遅れもみられるが、緩やかな回復基調が続いている」ということで一応好況だと認識している。ただ、その割には日本政府と日銀の政策は相変わらず「景気超悪い」モードのままである。「異次元金融緩和」をやってもシナリオ通り物価が上昇しないので、今度は財政出動すべきだと論じる人もいる。だが、現に対GDP比で約5%もの赤字財政をやっているのに、これ以上の赤字が必要だという理屈は理解できない。
好況が続いているのに、まるで大不況であるかのような政策が続けられているのはやはり日本経済の「新常態」が正しく認識されていないからだと思う。実は内閣府は2012年第2四半期以降の潜在成長率を年0.8%としているのだが、図には書き入れなかった。なぜなら、有効求人倍率の急上昇ぶりからして潜在成長率はもっと低いはずだからだ。たぶん0%かそれ以下だろう。
有効求人倍率がバブルの最終盤並みに上昇しても政府・日銀のアクセル踏みっぱなしの景気刺激策が転換される兆候はない。今後何が起きるのだろうか。有効求人倍率がさらに上がればやがて賃金が上昇するだろう。特にパートやアルバイトの賃金が上がるはずである。企業のコストが増えるため、企業はコストの上昇分を回収しようと製品やサービスの価格を引き上げる。ついに日銀が待望していた物価上昇が起きる。しかし、黒田総裁が就任して以来日銀が取り組んできた物価水準を操作しようという試みが失敗してきたことを考えると、いざインフレが起きたときにそれを適切な水準に制御できるかが不安である。ハイパーインフレに突き進まないよう、そろそろアクセルを緩め始めたほうがいいのではないだろうか。
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