コラム

日本も新常態(ニューノーマル)を認識すべきだ

2017年02月02日(木)17時00分

景気指標の1つ、有効求人倍率は2010年から上がり続けている Yuya Shino-REUTERS

<中国ではGDP成長率が下がっていくのはそれが「新常態」だから仕方がない、と政府は言っている。日本では政治家も国民も、日本経済の実力を過大評価しているため、過去20年以上にわたってずっと不況だったと認識され、絶え間ない景気刺激が求められてきた。日本経済の「新常態」を正しく認識しなければ、いずれ破綻を招く>

1月下旬に発表された2016年の中国のGDP成長率は6.7%で、2015年の6.9%より少し下がった。ただ、最近の中国のGDP成長率はゆるやかに下がってくることが何やら既定路線のようになっているようで、まじめに付き合うのがだんだんバカバカしくなってきた。

昨年12月に私が行った鉄鋼企業でのインタビュー、および工業生産統計などからみて、中国の景気は緩やかに低下というより、むしろ2015年の落ち込みから回復してきたと私は見ている。2015年の中国鉄鋼業は業界全体が赤字に陥るほどの苦境にあった。不動産価格も2015年が底で、その後深圳などではむしろ急上昇している。2015年10月6日の本コラムで論じたように2015年は5%台かそれ以下ぐらいに経済が落ち込み、2016年には回復してきたと見たほうが万事つじつまが合う。

国家のもっとも基本的な統計であるGDP成長率が信用できないというのは残念なことであるが、統計の粉飾の効用をあえて述べれば、それは粉飾された数字がちょうど中国政府のいう「新常態(ニューノーマル)」の範囲に収まっているために、財政支出の拡大による大型景気対策を求める声を抑えることができる点にある。2008年のリーマンショック後に展開された大型景気対策が過剰な債務、過剰な生産能力といった一連の問題をもたらしたのだから、再びその道に戻ることはなんとしても避けたい。

終盤になってようやく気づいた「バブル経済」

このように、高い成長率に慣れてしまった人々の意識を変えるうえで、もはや我が国にはかつてのような高い成長率は望めないのだ、我が国は「新常態」に入ったのだ、と説得することは重要だ。日本でも日本経済の「新常態」を認識して国民の意識を変えていく努力がなされていれば国の借金がこんなにまで膨らまなかったのではないかと思う。

一国民としてのざっくりした印象を言えば、日本国民は過去25年ぐらいずっと「景気が悪い」と認識していた。そもそも、「バブル期」と認識されている1980年代後半だって、バブルの発端とされている1986年には「円高不況」が盛んに言われていたし、世論調査で「景気が良くなってきた」と感じる人が「景気が悪くなってきた」と感じる人の割合を上回ったのはバブルの最後の2年間(1989~90年)だけだった(木庭雄一「時事世論調査からみた景気動向指数」『中央調査報』No.564)。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

グリーンランドに「フリーダムシティ」構想、米ハイテ

ワールド

焦点:「化粧品と性玩具」の小包が連続爆発、欧州襲う

ワールド

米とウクライナ、鉱物資源アクセス巡り協議 打開困難

ビジネス

米国株式市場=反発、ダウ619ドル高 波乱続くとの
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ関税大戦争
特集:トランプ関税大戦争
2025年4月15日号(4/ 8発売)

同盟国も敵対国もお構いなし。トランプ版「ガイアツ」は世界恐慌を招くのか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 2
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止するための戦い...膨れ上がった「腐敗」の実態
  • 3
    凍える夜、ひとりで女性の家に現れた犬...見えた「助けを求める目」とその結末
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 6
    米ステルス戦闘機とロシア軍用機2機が「超近接飛行」…
  • 7
    「やっぱり忘れてなかった」6カ月ぶりの再会に、犬が…
  • 8
    「ただ愛する男性と一緒にいたいだけ!」77歳になっ…
  • 9
    コメ不足なのに「減反」をやめようとしない理由...政治…
  • 10
    関税ショックは株だけじゃない、米国債の信用崩壊も…
  • 1
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 2
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    凍える夜、ひとりで女性の家に現れた犬...見えた「助…
  • 9
    「やっぱり忘れてなかった」6カ月ぶりの再会に、犬が…
  • 10
    ロシア黒海艦隊をドローン襲撃...防空ミサイルを回避…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 3
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の…
  • 6
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story