コラム

中国経済の足を引っ張る「キョンシー企業」を退治せよ

2016年01月21日(木)18時26分

「大手国有キョンシー」はまた延命される?(写真右がキョンシー人形) mxing-iStockphoto.com

「キョンシー」なんて言葉は初めて聞いたという人のために、「キョンシー」とは何かをまず説明しておきましょう。「キョンシー」は1985年に公開されてヒットした香港映画「霊幻道士」に出てくる妖怪です。正しい方法で埋葬されなかったり、恨みを残して死んだ人が「硬直した死体」を意味する「キョンシー」になって墓場から抜け出し、人の生き血を吸ったりします。腕を前に突き出してピョンピョン跳ねまわる、怖いけどユーモラスな妖怪です。

 さて、「キョンシー」とは「殭屍」という中国語の単語を広東語読みしたものですが、昨年末以来、中国の新聞には「殭屍企業」という言葉が頻出するようになりました。これは「ゾンビ企業」の訳なのですが、中国の文化に敬意を表して「キョンシー企業」と呼ぶことにします。

「キョンシー企業」とは、赤字が続いていて経営状況が悪いにもかかわらずなかなか退出せずに経済の足を引っ張っているような企業を指します。2015年暮れに中国共産党の首脳が集まって経済政策について話し合った中央経済工作会議では、2016年の重点課題を「サプライサイドの構造改革」と定めましたが、その焦点は過剰な供給能力を整理・淘汰することです。分かりやすく言えば今年の最大課題はキョンシー企業退治だということです。

 工業の生産能力過剰は今に始まったことではなく、私の見るところ中国の各産業は過去20年ぐらいいつも多かれ少なかれ過剰であったように思います。2009年から2013年頃までの投資主導の成長のなかで、鉄鋼、セメント、石炭、非鉄金属などの産業が潤い、生産能力を拡大したのが、最近の成長減速と投資の縮小によって一転して厳しい状況に追い込まれました。

 セメント産業の場合、全国の生産能力は35億トンですが、昨年の生産量は23.5億トンで、生産能力の稼働率は7割以下でした。鉄鋼業の場合、粗鋼の生産能力は12億トンなのに対し、昨年の生産量は8億トンで、生産能力の3分の1は使われませんでした。それでもなお生産が過剰なため鋼材が値下がりし、売れば売るほど赤字だと言います。

余剰の鉄鋼生産に補助金?

 しかし、生産を停止してしまうと、銀行は債権の回収を急ごうと企業に借金の返済を迫ってくるので、赤字でも生産をやめられないのです。国有鉄鋼メーカーに対しては生産を維持させるために1トン生産するごとに500元の補助金が支給されていると言います(『21世紀経済報道』2015年12月2日)。なぜ生産能力過剰だと言っているかたわらでこんなことが行われているのか理解できませんが、ともあれ、退出すべき企業がキョンシー企業になってしまう背景にはこうした政府の補助金や、貸し倒れを避けるためにダメな企業を助けてしまう銀行の存在があります。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

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