コラム

日本の新幹線の海外輸出を成功させるには

2015年11月18日(水)18時46分

 そもそもあちらの駅には改札というものがないのです。先だってドイツに行った時には、フランクフルト空港に降りたらそのすぐ横にICEの駅があり、日本で購入して印刷しておいた切符を持って列車に乗り込み、空港到着の3時間半後には目的地のフライブルグにつきました。これほどの便利さは日本の新幹線には望めません。

 日本の新幹線の中国高速鉄道に対する最大の優位はやっぱり経験の長さです。新幹線は開業から51年の歴史のなかで、社会からのさまざまな要請に対応してきました。技術上の大きな課題は沿線における騒音公害でした。新幹線のパンタグラフは騒音を少なくするような形に改良されています。

 先頭車両はTGVやICEに比べると鼻先がぐっと突き出た形になっていますが、これはトンネルから出るときの爆音を減らすためで、トンネルが多い日本の状況に対応した進化です。中国の高速鉄道車両のうち川崎重工から技術導入したものは新幹線と同様に鼻先が長い格好をしていますが、トンネルが少ない中国の高速鉄道で果たしてあんな格好にする必要があるのかと思います。その点を見ても中国の高速鉄道は未熟な段階にあります。

 そんな未熟なものを海外に輸出していいのか、というのが日本の鉄道関係者の考え方でしょう。しかし、インドネシアのニーズは中国や日本とはまた違っているはずです。インドネシアの高速鉄道は現地の環境に適応した進化をしていかなくてはなりません。合弁企業を作るという中国の提案のなかに、インドネシア側は現地に適応していこうという気概を感じて評価したのかもしれません。

 経験が長い分、各国のニーズに適応するための技術の引き出しは日本の新幹線の方が中国よりもずっと多いはずです。もし相手国の要望に寄り添って、豊富な技術を繰り出していく意欲と姿勢を見せることができれば海外での新幹線に対する評価は上がるでしょう。日本の車両メーカーと鉄道会社には次の商戦に向けた奮起を期待しております。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米バークシャー、24年は3年連続最高益 日本の商社

ワールド

トランプ氏、中国による戦略分野への投資を制限 CF

ワールド

ウクライナ資源譲渡、合意近い 援助分回収する=トラ

ビジネス

ECB預金金利、夏までに2%へ引き下げも=仏中銀総
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 5
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story