コラム

知床遊覧船沈没事故から考える、名ばかりの安全対策を見直す道

2022年05月20日(金)17時45分

バス、鉄道、飛行機など乗り物ごとに道路運送法、鉄道事業法などと業法が分かれているが、06年 10 月に運輸安全一括法が制定され、共通の制度の下で安全管理の体制づくりが行われるようになった。

その制度が「運輸安全マネジメント」だ。経営トップがリーダーシップを発揮して、安全管理体制をPDCAサイクルで継続的に改善することに努め、その取り組みを国土交通省がインタビューや文書記録の確認を通じて評価するというもの。JR福知山線列車脱線事故などヒューマンエラーに起因すると考えられる事故やトラブルが多発したことがきっかけでできた。

はじめは大規模な事業者のみ義務付けられていたが、08年より全事業者に義務付けられている。もちろん、KAZU1のような小型船舶を運航する事業者も対象だ。

報道でも取り上げられ、検討会の論点となっている「安全管理規定」も福知山事故をきっかけに陸海空の全モードで作られるようになった。

ガイドラインに目を通しても、経営者の責任、安全統括責任者、整備責任者、運行責任者を指名して役割や責任の所在を明確に記載する必要があり、従業員への安全教育や情報伝達およびコミュニケーションの確保など、細かく決められていることが分かる。

利用者への「見える化」を目指す取り組みも

適正価格か、安全であるか──そうしたことを利用者の側で考えて判断するために参考にできる制度もある。その一つが、一般消費者が安全な貸切バス事業者を選択できる「貸切バス事業者安全性評価認定制度」だ。安全に対する取り組みを星で評価して見える化することを目指した。

07年、あずみ野観光スキーバス事故を受けて、国土交通省、貸切バス事業者、旅行会社、両業界の団体、労働組合が「貸切バスに関する安全等対策検討会」を設置した。その報告書の中で、「安全などの取組みを、どの貸切バス事業者が適切に行っているか利用者から見た場合に不明」「旅行会社との取引においては、貸切バス事業者の安全性等の質よりも運賃の高低が優先される場合もある」といった問題点が指摘されたのが発端だ。

ただし、この貸切バス評価制度は、一般消費者への周知や参画する貸切バス事業者数が足りないせいか、うまく活用されていないように感じる。小型船舶の対策では、この評価制度を参考にしつつ、零細企業でも実行できる持続可能な仕組みを検討してほしい。

プロフィール

楠田悦子

モビリティジャーナリスト。自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』初代編集長を経て、2013年に独立。国土交通省の「自転車の活用推進に向けた有識者会議」、「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」、SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)ピアレビュー委員会などの委員を歴任。心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化とその環境について考える活動を行っている。共著『最新 図解で早わかり MaaSがまるごとわかる本』(ソーテック社)、編著『「移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)、単著に『60分でわかる! MaaS モビリティ革命』(技術評論社)

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