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「何のための実証実験か」事故を乗り越え、自動運動で日本が世界をリードするには
自動運転バスが走行する都市のイメージ Scharfsinn86-iStock
<自動車産業は100年に一度の変革期を迎えている。自動車で世界をリードしてきた日本には自動運転でも新たな基盤を築いてほしいところだが、今その気概は感じられない>
東京2020パラリンピックの選手村では、選手や大会関係者の移動用にトヨタ自動車のバスタイプの自動運転車両「e-Palette(イーパレット)」が導入された。その車両が交差点を右折した際、日本代表で視覚障害者の北薗新光選手に衝突し、大会を欠場させてしまう事故が発生したことは記憶に新しい。オペレーターとして乗っていたトヨタ社員は書類送検され、事故は一社員の過失のように報じられた。
筆者は幾度となくバスタイプの自動運転車を取材してきたが、車両内外の安全を十分確認しながら、システムと人が役割を分担して運行しているため、1人が責任をすべて負うものではないと考える。事故で欠場したパラリンピアンはもちろん残念だったが、書類送検された社員もまた被害者だ。
実証実験はトーンダウン 日本に漂う挑戦を阻む空気
バスタイプの自動運転車両を用いた日本での実証実験では、仏NAVYA(ナビア)社のARMA(アルマ)や日野自動車のポンチョを改造したものが使われている。ヤマハ発動機の電動カートを用いた実証実験も多い。バスタイプの自動運転専用車はe-Pallet が日本初となる。今年度から日本製の車両を用いて実証実験ができると期待していた矢先の事故だった。
この事故が起きてから自動運転サービス(レベル4)を検討することに対して、これまで以上に失敗を恐れるようになり、トーンダウンしてしまった。
世界に引けを取らない日本の実績
デジタル化や電動化により100年に一度のモビリティ革命が起きようとしていて、経済産業省によると2030年までがその移行期だという。
アメリカ、ドイツ、中国など海外勢のバスタイプやタクシータイプの自動運転実証実験のニュースが称賛され、日本の技術が遅れているようなイメージが持たれている。しかし、実は日本勢も負けてはいない。
例えば、横浜のみなとみらい地区で日産自動車が商用EV「e-NV200」ベースの自動運転車両を用いて、Easy Ride(イージーライド)という自動運転サービスの実証実験を行っている。担当者いわく他国とは条件が異なるという。
「建物や人の少ない北米や自動運転の環境を作って走らせている中国と違って、高い建物が所狭しに立ち並び、歩行者や自転車が交錯する道路も多いなど非常に難しい環境下で実施している」
e-Palletも車内の空間は広々としている。何もないエリアでもその車両が走るだけでたちまち未来を感じさせるデザインだ。
高齢化社会を迎えた日本ならではのユニークな自動運転サービスも全国で数多く実施され、2021年度に実サービスを開始した地域もある。中山間部など人口の少ない地域では、ヤマハ発動機のゴルフカートが活躍している事例もある。
国ごとで異なる自動車の安全基準などを検討し相互の認証を推進する国際基準調和世界フォーラム(WP29/WP1)では、自動運転について議長国を務めるなど、国際的な活動も長年粘り強く頑張っている。
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