コラム

ベビーカーと車いすに厳しい日本の不寛容は、パラリンピックの自国開催で変わる?

2021年06月30日(水)18時20分

これだけ多方面で交通事業者や国が改善に努めていても、残念ながらベビーカーや車いすで嫌な思いをしている人がまだまだ多い。

少し古いデータになるが、オンラインベビーシッターアプリを通して女性支援事業を行うキッズラインが2017年に実施したベビーカー利用実態調査によると、「ベビーカー利用時に嫌な思いをしたことがある人」は56.8%と半数以上という結果に。嫌な思いをした場所で最も多かったのが「電車内」で割合は59.3%。車内で舌打ちされるなど邪魔者扱いされたり、ベビーカーを蹴られることもあるという。2021年に入っても筆者の周りでは「ベビーカーを使っていて嫌な思いをした」という声をたくさん聞く。また国交省の調査によると、ベビーカーマークの認知度は「2020年までに50%」を掲げていたが、48.5%にとどまっている。

車いすに関しては、2021年4月に車いすの女性がJRに乗車を拒否されたとするブログを公開したところ、ネットで炎上し、テレビで取り上げられるなど社会問題化した。

パラリンピックに期待すること

公共交通のインフラ整備の問題も大きいが、調査の声にもあるように、そもそも根底にある障害者や子育て層の外出に対する日本社会の理解や寛容度の低さを直視する必要があるのではないか。そうしたアップデートされないソフト面がインフラ問題に影響しているように思えてならない。

パラリンピック期間には、障害を持ちながらもアクティブに社会参加する世界中の選手たちが、各々の障害に合わせた機器を駆使して東京を移動することになる。

残念なのは感染症対策のため、そうした選手たちを街中で見られないということだ。それでもパラリンピックの自国開催が障害の有無や年齢にかかわらず、お互いの人権や尊厳を大切にする意識を高め、支え合う社会に少しでも近づくきっかけになることを切に願う。

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プロフィール

楠田悦子

モビリティジャーナリスト。自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』初代編集長を経て、2013年に独立。国土交通省の「自転車の活用推進に向けた有識者会議」、「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」、SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)ピアレビュー委員会などの委員を歴任。心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化とその環境について考える活動を行っている。共著『最新 図解で早わかり MaaSがまるごとわかる本』(ソーテック社)、編著『「移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)、単著に『60分でわかる! MaaS モビリティ革命』(技術評論社)

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