コラム

ベビーカーと車いすに厳しい日本の不寛容は、パラリンピックの自国開催で変わる?

2021年06月30日(水)18時20分

障害者についての感じ方も国によって異なる。内閣府が2007年に行った「障害者の社会参加推進等に関する国際調査」によると、ドイツやアメリカでの障害者に対する意識は、障害のある人を前にしても9割近い人が「あまり・全く意識せず(気軽に)接する」と回答している。一方日本では6割の人が「意識する」としている。

また2017年に行われた内閣府の「障害者に関する世論調査」(日本人対象)で、「障害のある人が困っている時に、手助けをしたことがありますか」という問いに対して「ある」と答えた人が61.8%、「ない」が38.2%という結果になった。「ない」の理由としては「見かける機会がない」が78.5%、「どのように接したらよいかわからなかったから」が12.0%だった。日常生活の中で障害のある人とない人の距離が遠く、触れ合う機会が少ないことが窺える。

日本と欧米のこうした差は、障害者と健常者を意識的に区別する社会かどうかと言い換えることができるだろう。

区別する社会としない社会では、障害者の外出に寄り添う公共交通のスロープ、エレベーター、改札、車両といったハード面から、外出サポートの仕方や制度などの心理的なソフト面で異なってくる。例えばアメリカでは、鉄道やバスは車いすユーザーが一人で乗降できることが前提で施設や車両が設計されていて、鉄道の駅員やバスの乗務員がわざわざ手伝う必要がない。障害者と健常者を分ける意識がほとんどないため、障害者も堂々としていて、周囲も気兼ねなく声を掛ける。技術や予算の問題ではなく、障害者の外出に対する考え方が異なるからだ。車いす利用者が一人で乗り降りできる鉄道やバスは当然、ベビーカーや大きな荷物を持った人にとっても利用しやすい。

理解は進みつつある

日本は何もしていないのかというとそうではない。劇的に改善が進んでいるところもある。例えばエレベーターの設置が進められ、バスの車両は低床化が一般的になり、ホームドアが増え、介助について教育を受けたサービス介助士資格を持つ駅員も急増している。

羽田空港旅客ターミナルは、イギリスの航空サービスリサーチ会社スカイトラックス社が実施した2020年国際空港評価において、高齢者や障害者など移動に補助を必要とする利用者へのサポートが優れているとして2年連続1位を獲得している。

ベビーカーに関しては、「公共交通機関等におけるベビーカー利用に関する協議会」が設置された2013年ごろを境に、鉄道やバス事業者や乗客の意識が徐々に変わってきていると感じる。ベビーカーに対する理解を求めるポスターが掲載され、ベビーカーマークが作られたり、バス車内にもベビーカーのスペースを確保したり、ベビーカーユーザーが移動しやすいようにアプリも作られている。

プロフィール

楠田悦子

モビリティジャーナリスト。自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』初代編集長を経て、2013年に独立。国土交通省の「自転車の活用推進に向けた有識者会議」、「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」、SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)ピアレビュー委員会などの委員を歴任。心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化とその環境について考える活動を行っている。共著『最新 図解で早わかり MaaSがまるごとわかる本』(ソーテック社)、編著『「移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)、単著に『60分でわかる! MaaS モビリティ革命』(技術評論社)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国こそが「真の脅威」、台湾が中国外相のミュンヘン

ワールド

米中「デカップリング論」に警鐘、中国外相がミュンヘ

ビジネス

ウォルマート決算や経済指標に注目、「AIの負の影響

ワールド

ドバイ港湾DPワールドのトップ辞任、「エプスタイン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発される中国のスパイ、今度はギリシャで御用
  • 2
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」でソフトウェア株総崩れの中、投資マネーの新潮流は?
  • 3
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活動する動画に世界中のネット民から賞賛の声
  • 4
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 5
    それで街を歩いて大丈夫? 米モデル、「目のやり場に…
  • 6
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 7
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 8
    川崎が「次世代都市モデルの世界的ベンチマーク」に─…
  • 9
    世界市場3.8兆円、日本アニメは転換点へ――成長を支え…
  • 10
    【インタビュー】「4回転の神」イリヤ・マリニンが語…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
  • 6
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 7
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 8
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 9
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」で…
  • 10
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story