コラム

ラストマイルMaaSに見る地域格差──見出せないクルマ以外の選択肢

2021年06月11日(金)19時35分

ラストマイルの取り組みは、大きく3つに分けられる。1つ目は自分で移動する際に利用するサービスで、カーシェア・シェアサイクルがある。2つ目は誰かに送ってもらう移動サービスで、公共交通、AIデマンド交通、自動運転バスやタクシーがある。3つ目は物がやってくるサービスで、宅配ロボットやドローンなどだ。

持続可能な仕組みづくりのポイントについて、今回は「誰かに送ってもらう移動サービス」に焦点を当てて考える。

ベースは、鉄道・バス・タクシーといった伝統的な公共交通の長期経営戦略の見直しだ。基本的に送ってもらう移動サービスは利益が出にくく、安全性や乗務員の給与確保、秩序といったバランスを国土交通省が調整してようやく成り立つような事業だ。事業構造や関係する法律の理解も欠かせない。

高齢者の免許返納問題でニーズは高まっているが、自動車の普及により利用者が減ったことで公共交通事業者の体力は減り、新型コロナウイルス流行による外出自粛やデジタル化促進がそうした窮状に拍車をかけている。

もしも伝統的な移動サービスで暮らしの移動が確保できないことが分かり、デマンド交通、自動運転バス・タクシー、共助型のサービスの導入を図る場合、絶対に忘れてはいけないことがある。地域の公共交通事業者、乗務員との関係づくりだ。公共交通の業界は政治力が強く、業界の作法に反すると、すなわち失敗したのも同然だ。乗務員も自動運転バス・タクシーといった新技術の活用が進むと自分たちの職が奪われるのではないかと心配している。

「走らせること」が目的化

中山間地域における新モビリティサービスの展開が実証実験で終わるのはなぜだろうか。

実は多くが安全に走行できるかどうか、スマートフォンアプリやモビリティサービスのシステムが動くかなどの技術実証であり、住民の要望に応えるためにとにかくサービス提供を始めたなど走らせることが目的化していることが多いからだ。

先術の国土交通省の事例集のように、すでにさまざまな成功事例と失敗事例が蓄積されている。これからのMaaSの実証実験で問われるのは、マネタイズや組織体制など持続可能な仕組みづくりについてできる限りシミュレーションしてから実証実験をするということではないだろうか。

マネタイズについて考える上で痛感するのは、車両購入・維持費、人件費、保険、安全管理、システム代など、人を安全に移動させるには非常にお金がかかるということだ。また、高齢者の足の確保が大きな問題となっている地域では、クルマ保有に支払う習慣はあっても、タクシーも含めた公共的なサービスを利用したり運賃を支払ったりする習慣がなく、なかなか使ってもらえない。

プロフィール

楠田悦子

モビリティジャーナリスト。自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』初代編集長を経て、2013年に独立。国土交通省の「自転車の活用推進に向けた有識者会議」、「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」、SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)ピアレビュー委員会などの委員を歴任。心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化とその環境について考える活動を行っている。共著『最新 図解で早わかり MaaSがまるごとわかる本』(ソーテック社)、編著『「移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)、単著に『60分でわかる! MaaS モビリティ革命』(技術評論社)

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