コラム

ディープフェイクによる「偽情報」に注意を...各国で、選挙の妨害を狙った「サイバー工作」が多発

2024年06月08日(土)19時27分

こうしたサイバー犯罪は、民主的な選挙の完全性、安全性、正当性に重大な脅威をもたらす。選挙関連のサイバー脅威と効果的に闘うためには、強固なサイバーセキュリティ対策や国民の意識向上キャンペーン、国際協力が必要になる。

さらに最近注視すべきは、AIを活用した偽情報キャンペーンだ。

女性の野党政治家がビキニ姿のディープフェイク動画に

バングラデシュでは、女性の野党政治家がビキニ姿でディープフェイク動画になって、国政選挙を前にSNSに拡散された。ディープフェイクは、スロバキアやインドネシアの大統領選挙でも広く使われた。

一方、中国は偽のSNSアカウントを駆使して、有権者に世論調査を実施して何が分断を生むのかを調べ、分断の種をまく。これから、アメリカでは大統領選挙があるし、日本でも東京都知事選などが行われる。そうした選挙の結果に影響を与える可能性がある。

中国はまた、世界中で活動するためにAIを活用している。インドだけでなく、アメリカやヨーロッパにおいて、政治のみならず、国内の民族的また宗教的な緊張など、さまざまなトピックについて影響を与え、分断の種をまこうと試みている。AI技術の急速な進歩は、ディープフェイクや音声のクローン、高度なマルウェアといった強力なツールをサイバー犯罪者に提供し、選挙プロセスに対する脅威を複雑化している。インドの選挙と同様に、世界でも同じリスクに直面するだろう。

選挙プロセスにおけるテクノロジーの利用拡大により、サイバーセキュリティは極めて重要な課題となっている。国家は、これらの課題に長期的に取り組む必要があるが、ディープフェイクの進化は、政府、ジャーナリスト、政治家、テック企業、そして今日の国の民主主義システム全体の気概を試すことになるだろう。政党がSNSを使ってコミュニケーション戦略を推進し、標的を絞った政治キャンペーンを行うためのデータ分析を行っている間に、サイバー攻撃者や敵対する国家は、デジタル技術を悪用して選挙プロセスに干渉する可能性は織り込んでおく必要がある。

そもそも偽情報とプロパガンダははるか昔から長年認識されていた手法である。

例えば旧ソ連が行った最も悪名高い偽情報キャンペーンである「デンバー作戦」では、HIVウイルスの発生はアメリカに責任があると世界に広めるためのキャンペーンだった。1983年、インドの地方紙の編集者に宛てた架空の手紙(この手紙は、数年前にKGBが親ソ宣伝のために作成したものである)から始まった。

プロフィール

クマル・リテシュ

Kumar Ritesh イギリスのMI6(秘密情報部)で、サイバーインテリジェンスと対テロ部門の責任者として、サイバー戦の最前線で勤務。IBM研究所やコンサル会社PwCを経て、世界最大の鉱業会社BHPのサイバーセキュリティ最高責任者(CISO)を歴任。現在は、シンガポールに拠点を置くサイバーセキュリティ会社CYFIRMA(サイファーマ)の創設者兼CEOで、日本(東京都千代田区)、APAC(アジア太平洋)、EMEA(欧州・中東・アフリカ)、アメリカでビジネスを展開している。公共部門と民間部門の両方で深いサイバーセキュリティの専門知識をもち、日本のサイバーセキュリティ環境の強化を目標のひとつに掲げている。
twitter.com/riteshcyber

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story