コラム

モスクワ銃撃テロの背景...サイバー空間で復活した「IS(イスラム国)」、脅威インテルで実態に迫る

2024年03月23日(土)16時40分

また「The Travelers'」(旅人たち)というチェンネルもISの考えを広めるようなチャンネルになっており、シリアのイスラム教徒が受ける残虐行為を話題にすることが多い。そうして、同情者を集めようとしている。しかもサイバー空間には国境がなく、世界中にいるいろいろな能力をもったイスラム教徒などがそこに感化されていく。ハッカーが参加すれば、サイバー攻撃を使ったテロ行為も実施される可能性がある。

秘密のやり取りを可能にする仕組みやテクノロジー

「WhispersOfTheForgotten」は、ISが使う独自のシークレット(秘密)チャットのプラットフォームも運営している。そこには世界中のさまざまな地域からの、活動中または非活動中の多くのIS関係のグループが参加している。その上で、寄付を募るプラットフォームも同時に設置している。こうしたチャット空間上では、Telegramユーザーらが連絡を取り合い、寄付についての連絡先などについての情報共有が行われている。

「WhispersOfTheForgotten」のチャンネル管理者に接触してみると、そのプロセスが見えてくる。このチャンネルではハンドルネームで参加することが求められ、さらに接触を続けるとシークレットチャット機能を有効にするよう要求される。シークレットチャットではスクリーンショットなどを撮影することができないため、管理者側は安心してやり取りができるようになる。さらに寄付サイトでも、情報は短い一定の時間で削除される設定になっており、チャット相手が一読すると消えてしまうメッセージのやりとりが行われる。

こうした調査で、寄付を振り込むための暗号通貨のウォレットアドレスも入手した。ただこの寄付を受け付けるウォレットは、常に空の状態に保たれ、入金されたビットコインなどは直ちに別のウォレットに移動される。そのため、そこから先の寄付の動きや、ウォレットの管理者、こうした寄付の背後に誰がいるのかはまったくわからない。もちろん、寄付がどこで現金化されて、どんな目的に使われているのかを把握するのは至難の業だ。

ただ私たちの調査では、少なくとも2つのウォレットで8万ドルの寄付を受け取っていたケースを把握している。ほかのウォレットも、寄付の受け取り用や分配用などに分けられている可能性があった。

現在、以前よりも活動が落ち着いているように思えるISのようなテロ組織は、サイバー空間で静かに活動し、力を蓄えている。暗号通貨やTelegramといった足がつかない安全なプラットフォームを融合させることで、テロ組織は活動が検出されるリスクを回避し、法執行機関による彼らの不正活動の追跡を複雑に錯乱することで、隠密に活動することが可能になっている。

プロフィール

クマル・リテシュ

Kumar Ritesh イギリスのMI6(秘密情報部)で、サイバーインテリジェンスと対テロ部門の責任者として、サイバー戦の最前線で勤務。IBM研究所やコンサル会社PwCを経て、世界最大の鉱業会社BHPのサイバーセキュリティ最高責任者(CISO)を歴任。現在は、シンガポールに拠点を置くサイバーセキュリティ会社CYFIRMA(サイファーマ)の創設者兼CEOで、日本(東京都千代田区)、APAC(アジア太平洋)、EMEA(欧州・中東・アフリカ)、アメリカでビジネスを展開している。公共部門と民間部門の両方で深いサイバーセキュリティの専門知識をもち、日本のサイバーセキュリティ環境の強化を目標のひとつに掲げている。
twitter.com/riteshcyber

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