コラム

元TBSアナ久保田智子:不良だった私が東大に入るまで

2019年05月20日(月)16時40分

もし友人たちも挑戦していたらどうだったろうと思います。友人の中には私よりも才能のある人たちがたくさんいました。自分たちにも短大以外の選択肢があると感じていたら、彼女たちは全く違った人生を送ることになっていたはずです。もちろん短大進学が間違っているわけではありませんし、現在の彼女たちを否定するつもりはありません。他の選択肢が今より幸せだったと断定するつもりもありません。ただ、十分な選択肢が与えられその中から選択できていただろうか、自分たちにはそんな価値はないと思わされていなかっただろうか、と思うのです。

その後私はアナウンサーになり、今年2月にはアメリカ・コロンビア大学で修士号を取得しました。4月からは東京大学に通っています。学部入学式では、上野千鶴子さんがスピーチし、大きな話題になりました。


「あなたたちが今日『がんばったら報われる』と思えるのは、これまであなたたちの周囲の環境が、あなたたちを励まし、背を押し、手を持ってひきあげ、やりとげたことを評価してほめてくれたからこそです。世の中には、がんばっても報われないひと、がんばろうにもがんばれないひと、がんばりすぎて心と体をこわしたひとたちがいます。がんばる前から、『しょせんおまえなんか』『どうせわたしなんて』とがんばる意欲をくじかれるひとたちもいます。

あなたたちのがんばりを、どうぞ自分が勝ち抜くためだけに使わないでください」

スピーチを聞きながら、かつての友人たちの顔が浮かびました。そして母の手書きの問題集を思いました。頑張るということは個人の行為ですが、頑張ることを可能にしていること、そして報われるというのは、個人を超えた周囲との関係性から成り立っていたのだと感じました。だとすると、東大に行く人と、行かない人にどんな差があるというのでしょうか。それはその人の努力とは別に、「運」にも大きく左右されているのではないかと思います。つまり環境が整えば誰にでも可能性があり、東大に入ったからといってその人自身が変わるものではないのです。

「赤門の前で、土下座して何かお願いしている人がいましたよ。日本では東大神話があるんですね」。同じゼミの中国人留学生の友人が驚いた様子で教えてくれました。さすがに赤門に土下座しても何も成就しないだろうと笑ってしまいましたが、考えてみると私も長く東大を神のような絶対的な存在と感じていました。東大生と聞けば、その人の如何に関わらず、別世界の人なのだと思っていました。

しかし実際に入学してみると、東大は決して完全無欠の存在ではなく、とても素朴で温かです。様々な巡り合わせで、様々な志を持った学生たちが集まっています。もしこのコラムが神格化された東大とのギャップを表現し、将来の受験生たちの選択肢を広げることに寄与できるとしたら、とても嬉しいです。

20190528cover-200.jpg
※5月28日号(5月21日発売)は「ニュースを読み解く哲学超入門」特集。フーコー×監視社会、アーレント×SNS、ヘーゲル×米中対立、J.S.ミル×移民――。AIもビッグデータも解答不能な難問を、あの哲学者ならこう考える。内田樹、萱野稔人、仲正昌樹、清水真木といった気鋭の専門家が執筆。『武器になる哲学』著者、山口周によるブックガイド「ビジネスに効く新『知の古典』」も収録した。


20250408issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月8日号(4月1日発売)は「引きこもるアメリカ」特集。トランプ外交で見捨てられた欧州。プーチンの全面攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

久保田智子

ジャーナリスト/東京大学博士課程在籍。広島・長崎や沖縄、アメリカをフィールドに、戦争の記憶について取材。2000年にTBSテレビに入社。アナウンサーとして「どうぶつ奇想天外!」「筑紫哲也のニュース23」「報道特集」などを担当。2013年からは報道局兼務となり、ニューヨーク特派員や政治部記者を経験。2017年にTBSテレビを退社後、2019年アメリカ・コロンビア大学にて修士号を取得。現在は東京大学学際情報学府博士課程に在籍。研究テーマはオーラルヒストリー。東京外国語大学欧米第一課程卒。横浜生まれ、広島育ち。
Twitter @tomokokubota

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米人員削減、3月は60%急増 連邦職員解雇で=チャ

ワールド

訪米のロ特使、「関係改善阻む勢力存在」と指摘

ビジネス

イスラエルがシリア攻撃強化、暫定政権に警告 トルコ

ワールド

ハンガリー、ICC脱退を表明 ネタニヤフ氏訪問受け
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台になった遺跡で、映画そっくりの「聖杯」が発掘される
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    アメリカで「最古の銃」発見...いったい誰が何のため…
  • 7
    「最後の1杯」は何時までならOKか?...コーヒーと睡…
  • 8
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 9
    博士課程の奨学金受給者の約4割が留学生、問題は日…
  • 10
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 9
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story