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しかし、第4節は大統領の自発的ではない離職につながるため、これまで発動されたことはない。同節の規定では、回復した大統領が職務の遂行が可能であると宣言しても、4日以内に副大統領と閣僚の過半数が依然として大統領が職務を遂行できないと判断し、21日以内に議会の3分の2がその判断に同意すれば、副大統領が大統領職の代行を継続することになる。この手続きは、下院の過半数および上院の3分の2の賛成で成立する弾劾よりもハードルが高いとはいえ、いわば合法的クーデターである。1981年にレーガン大統領が銃撃された際、多くの閣僚が第4節の発動をブッシュ副大統領に求めたにもかかわらず、ブッシュはこれを受け入れなかった。
しかも、トランプ政権については、大統領に常規を逸した言動や精神的に不安定な兆候が見られるとして、第4節に基づいて罷免すべきだという議論がメディアで取り沙汰されたこともあり、守りが固くなっている。このため、ペンスとその他の閣僚にとって、その発動は通常よりもハードルが高いと考えられる。つまり、万が一、トランプが第3節の手続きを取れずに職務遂行ができなくなった場合、権力の空白が生じる可能性が否定できない。
裁判になれば権力の空白が
それでは、大統領と副大統領が同時に重篤化し、修正第25条に基づいた権限の委譲が行われない場合はどうなるだろうか。この場合は、大統領権限継承法に基づき、下院議長が大統領代行になることが定められている。しかし、大統領と副大統領が重篤のため職務を遂行できないと判断する手続きは明白ではない。このため、下院議長が大統領職の代行を宣言しても、大統領府および副大統領府が職務の遂行が可能であると反論する可能性がある。
特に、トランプの弾劾手続きを始めた張本人であるペロシ下院議長が大統領代行となることに対するトランプ政権の抵抗は、相当強いものとなるだろう。このような状況になれば、おそらく裁判所が判断を下すことになると考えられるが、その間権力の空白が生じる可能性がある。実際に、トランプ大統領はテレビのインタビューでペロシが代行になれば「大惨事」であると発言しているし、マケナニー報道官も下院議長が代行になるプロセスについては検討していないと述べている。
合衆国憲法は、もともと大統領権限の継承については曖昧であった。しかし、暗殺や傷病などによって、大統領が職務を遂行できない事態は幾度もあった。特に、常に核戦争に備えなければならない冷戦期には、権限の継承を明確化する必要性が高まった。そして、1963年にケネディ大統領が暗殺されたことをうけて、修正第25条が制定されたのである。これによって権限継承の手続きは明確化されたが、以上でみたように、権力の空白が生じる可能性は残っている。特に、アメリカで政治の分断が進む中、その可能性は高まっている。
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