コラム

「少数派」石破政権はこれから、3つの難題に直面する

2024年11月19日(火)16時13分

有権者の怒りの本質は?

ドイツでは社会民主党(SPD)のオーラフ・ショルツ首相が財政政策の対立から、連立を組む自由民主党(FDP)のクリスチャン・リントナー財務相を罷免し連立政権が崩壊。少数与党としての信任投票・議会解散を経て、来年2月に総選挙をせざるを得ない状況に追い込まれている。

小党を取り込んだ連立政権の樹立は政権基盤を強固にする半面、小党の離脱が政権自体の瓦解を招く契機ともなり得る。つまり小党が連立政権の生殺与奪の権を握ることがあるのだ。石破首相は部分連合や連立政権に内包される、そうしたジレンマに向き合う綱渡りの国会運営を余儀なくされる。

次の問題は政治改革だ。総選挙敗北の主因が「政治とカネ」問題であったことから、石破政権は旧文通費(調査研究広報滞在費)の使途公開と残金返還、政策活動費の廃止、第三者機関の設置、個人献金を促進する税制優遇措置の拡充などを柱とする政治資金規正法の年内再改正を目指している。なぜ総選挙前の通常国会で実現させなかったのか、という落選議員の恨み節が聞こえてきそうだが、「覆水盆に返らず」で、政務活動費の廃止や企業団体献金の禁止は相当程度に野党側の主張が取り入れられるだろう。


しかし、改革の方向性は間違ってはいないが不十分だ。旧文通費は「定額の渡し切り」を前提とするから残金返還の問題が発生するのであり、民間企業と同じような「経費の実費精算制度」を導入すればよいだけだ。第三者機関を立法府に置くか行政府に置くかが議論となっているが、組織を新設するのではなく、既にある会計検査院を有効活用する手もある。石破政権が年内の再改正を急ぐあまり議論を深めず、国民の怒りの根源が「国会議員の特権性」に対する反感にあることを等閑視すると、元のもくあみになる可能性が高い。

派閥パーティー券問題が国民の強い批判を浴びたのは、収支報告書への不記載そのものの問題というよりも、議員が還流を受けたり手元に留保したりしたパーティー券売上分について税務申告せず、脱税していたに等しいと受け止められたからだ。その不平等性、金銭感覚の弛緩が物価上昇と生活苦にあえぐ国民の怒りを招いた。

党本部が非公認候補者の政党支部に公認候補者と同額の2000万円を支給した「2000万円問題」に対する有権者の怒りの本質も、そこにある。そうした怒りに石破首相はどう向き合うのか。

プロフィール

北島 純

社会構想⼤学院⼤学教授
東京⼤学法学部卒業、九州大学大学院法務学府修了。駐日デンマーク大使館上席戦略担当官を経て、現在、経済社会システム総合研究所(IESS)客員研究主幹及び経営倫理実践研究センター(BERC)主任研究員を兼務。専門は政治過程論、コンプライアンス、情報戦略。最近の論考に「伝統文化の「盗用」と文化デューデリジェンス ―広告をはじめとする表現活動において「文化の盗用」非難が惹起される蓋然性を事前精査する基準定立の試み―」(社会構想研究第4巻1号、2022)等がある。
Twitter: @kitajimajun

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

英小売売上高、2月は前月比+1.0 非食品好調で予

ビジネス

ユーロ圏インフレ率、貿易戦争巡る懸念でも目標達成へ

ワールド

タイ証取、ミャンマー地震で午後の取引停止 31日に

ワールド

ロシア、ウクライナがスジャのガス施設を「事実上破壊
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影された「謎の影」にSNS騒然...気になる正体は?
  • 2
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中国・河南省で見つかった「異常な」埋葬文化
  • 3
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 4
    地中海は昔、海ではなかった...広大な塩原を「海」に…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 7
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 8
    「完全に破壊した」ウクライナ軍参謀本部、戦闘機で…
  • 9
    【クイズ】アメリカで「ネズミが大量発生している」…
  • 10
    「マンモスの毛」を持つマウスを見よ!絶滅種復活は…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 3
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 4
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 5
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 8
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 9
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 10
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story