コラム

乾坤一擲の勝負に出た岸田首相、安倍派パージの見えない着地点

2023年12月19日(火)17時42分

「政治とカネ」軽視のツケ

捜査の過程で仮に看過できない裏金の個人的着服が判明した場合、不記載・虚偽記載にとどまらぬ「政治家個人への寄付」違反が問責される可能性もある。政治資金規正法は「政党を除いて、何人も政治家個人に対して金銭等による寄附をしてはならない」と規定しており(第21条の2)、違反した政治家は1年以下の禁錮又は50万円以下の罰金に処せられる(時効は3年)。政党の幹事長などが個人として数千万から数十億円規模の「政策活動費」を支給されているのはこの規定に基づく。

一般的に雑所得として所得税の課税対象となるのは、必要経費を控除した残額になるが、政策活動費は一定の条件を満たせば全額が必要経費として認められるため事実上の非課税扱いになる。しかも使途の公開義務が課せられていないブラックボックスだ。今回のキックバックを「派閥から所属議員に配ったのではなく、党から派閥を経由して支給された政策活動費だ」とする安倍派の池田佳隆衆院議員の強弁は、派閥を超えて党の経理を捜査の対象とする危うさも含む。

今回の裏金疑惑が岸田政権を弱体化させたことは疑いない。政治資金収支報告書に4000万円以上のパーティー収入を記載せず、罰金100万円と公民権停止3年の略式命令を受けた22年の薗浦健太郎元議員の事件を「他山の石」とせず、「政治とカネ」を軽視してきたツケを払うのは自業自得と言うほかない。

岸田首相が仕掛けた安倍派パージに対する「反動」が顕在化するのはこれからだ。党内力学は変容し、森喜朗元首相の下で集団指導体制を取る安倍派の体制も動揺する。「岸田下ろし」が勃発したら、3月の新年度政府予算成立後に内閣総辞職に追い込まれる可能性も出てきた。

その過程で、後継首相候補としての無派閥議員の価値を世間が押し上げれば、「ポスト岸田の本命候補不在」という「幸運」は、完全に過去のものになるだろう。

20250225issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年2月25日号(2月18日発売)は「ウクライナが停戦する日」特集。プーチンとゼレンスキーがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争は本当に終わるのか

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

北島 純

社会構想⼤学院⼤学教授
東京⼤学法学部卒業、九州大学大学院法務学府修了。駐日デンマーク大使館上席戦略担当官を経て、現在、経済社会システム総合研究所(IESS)客員研究主幹及び経営倫理実践研究センター(BERC)主任研究員を兼務。専門は政治過程論、コンプライアンス、情報戦略。最近の論考に「伝統文化の「盗用」と文化デューデリジェンス ―広告をはじめとする表現活動において「文化の盗用」非難が惹起される蓋然性を事前精査する基準定立の試み―」(社会構想研究第4巻1号、2022)等がある。
Twitter: @kitajimajun

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国副首相が米財務長官と会談、対中関税に懸念 対話

ビジネス

アングル:債券市場に安心感、QT減速観測と財務長官

ビジネス

米中古住宅販売、1月は4.9%減の408万戸 4カ

ワールド

米・ウクライナ、鉱物協定巡り協議継続か 米高官は署
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story