コラム

自民善戦、立民惨敗、維新躍進の総選挙を構造分析する

2021年11月02日(火)11時56分

野党共闘は自業自得の結果か、未来への第一歩か

これに対して、野党共闘の不振をどう見るべきか。立憲民主党がコア支持層の理解を丁寧に得ることなく、共産党との協力という「禁断の果実」に手を出した自業自得の結果に過ぎず、急ごしらえの「付け焼き刃性」を有権者に見透かされたと見る向きもあれば、戦略的連携関係の「型」がどうにか整ったことが重要で、来る2022年夏の参議院選挙や次の衆議院総選挙こそが本番だと見る向きもあるだろう。今の立憲民主党は、2017年10月総選挙時に希望の党への合流を巡って民進党が大混乱する中で枝野幸男代表が一人で立ち上げたという創業ストーリーだけではなく、2009年政権交代以来の旧民主党の様々な歴史をも背負っている存在だ。今後の政権戦略を描き直すにあたって、どこまで遡って総括の射程を広げるかを国民は見ている。

もう一つ、躍進した日本維新の会は、近畿圏以外でも比例票を積み上げ、30議席増の41議席を獲得した。吉村洋文大阪府知事のコロナ対策や松井一郎大阪市長の改革路線が実績として評価されたことに加えて、「自民党にも野党共闘にも投票したくない層」の受け皿となることに成功したことも勝因だ(典型は京都1区)。今後はいかに国政政党として自前の政策を「是々非々」で実現させていくかが問われていくであろう。

国政選挙の本質は、全国民の代表である「議会人」を選ぶことだ。議院内閣制のもとで政府(行政府)を率いて国民の望む政策を実現するグランドデザインを描く代表を吟味し選定するのが本来の選挙である。しかし、今回の総選挙に限らず日本の選挙では、抽象性の高い政策、特に気候危機や経済安全保障といったグローバル・アジェンダは争点になりにくい傾向があり、むしろムラ的共同体の人間関係に基づいて「人」をどう選ぶかが主眼となりがちだ。小選挙区比例代表並立制という現行選挙制度の是非を含めて、有権者の半数近くが投票に行かないという低投票率の現状をどう変えるか、選挙のあり方をどう改善していくかが今後の重要な課題だ。

11月10日に招集される予定の特別国会で第2次岸田内閣が発足する。既に自民党は幹事長が茂木敏充外相に交代することになっている。茂木新幹事長が、コンプライアンスを含めた党内改革をいかに実現するかも注目されよう。

20241126issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年11月26日号(11月19日発売)は「超解説 トランプ2.0」特集。電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること。[PLUS]驚きの閣僚リスト/分野別米投資ガイド

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

北島 純

社会構想⼤学院⼤学教授
東京⼤学法学部卒業、九州大学大学院法務学府修了。駐日デンマーク大使館上席戦略担当官を経て、現在、経済社会システム総合研究所(IESS)客員研究主幹及び経営倫理実践研究センター(BERC)主任研究員を兼務。専門は政治過程論、コンプライアンス、情報戦略。最近の論考に「伝統文化の「盗用」と文化デューデリジェンス ―広告をはじめとする表現活動において「文化の盗用」非難が惹起される蓋然性を事前精査する基準定立の試み―」(社会構想研究第4巻1号、2022)等がある。
Twitter: @kitajimajun

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

FRB、一段の利下げ必要 ペースは緩やかに=シカゴ

ワールド

ゲーツ元議員、司法長官の指名辞退 売春疑惑で適性に

ワールド

ロシア、中距離弾でウクライナ攻撃 西側供与の長距離

ビジネス

FRBのQT継続に問題なし、準備預金残高なお「潤沢
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story