コラム

二階幹事長「他山の石」発言の本当の問題点

2021年03月29日(月)20時00分

二階幹事長の「他山の石」発言は物議を醸したが Ng Han Guan/Pool-REUTERS

<河井元法相が公選法違反裁判で一転して罪を認め、議員辞職する見通しになった。事件について、自民党の二階幹事長が「他山の石」と評したことが「他人事のよう」と責められている。二階氏は「言い間違えた」のだろうか>

2019年7月の参議院選挙における公職選挙法違反(買収)の罪に問われていた河井克行元法相は、3月23日から始まった被告人質問でこれまでの無罪主張を改め、起訴事実の大半を認めるとともに、25日には議員辞職願を衆議院に提出した。近く開かれる衆議院本会議で河井元法相の議員辞職が認められる見込みだ。

いま問題となっているのは、被告人質問の約1時間前、自民党本部でなされた二階俊博幹事長の発言だ。二階幹事長は「党としても他山の石としてしっかり対応していかなくてはならない」と述べたが、この「他山の石」の解釈を巡って議論が起きている。

野党サイドやSNSでは、二階幹事長の発言を「他人事のようで、無責任」だと批判する声が多くあがっている。一方で、そのような批判は的外れであり、「他山の石」に「他人事」という意味はないという指摘もなされている。はたしてどう考えればよいのだろうか。

2005年に公表された文化庁の「平成16年度『国語に関する世論調査』の結果について」によれば、「他山の石」を、「他人の誤った言行も自分の行いの参考となる」という本来の意味で使っている人が26.8%だった。これに対して、「他人の良い言行は自分の行いの手本となる」という意味で使っていた人は18.1%、分からないと回答した人が27.2%だった(調査対象:全国の16歳以上の男女3,000人、有効回収数2,179人)。

「他山の石」に共通理解なし

つまり、「他山の石」という言葉の意味が「分からない」とする回答が最も多く、「良い手本」となるという意味で理解している人も相当数いた。やや古い調査ではあるが、二階幹事長発言が議論となっているのは、国民の間で、この言葉について一義的な共通理解がないことが背景としてあろう。

他人の良い行いをお手本にするという解釈は、文化庁によれば、本来の意味とは異なるとされている。では、「他山の石」を、他人の「悪い行い」、「誤った言行」も自分の行いの参考となるという意味だとした場合、「他人」とは誰を指すのか。

今回の「他山の石」発言を批判する側からすれば、河井前法相による買収事件は自民党の中枢で起きたことであり、他ならぬ自民党の幹事長が、参議院選挙当時自民党員であった河井前法相の事件を「他人」というのは、当事者意識を欠くものでおかしいということになる。

プロフィール

北島 純

社会構想⼤学院⼤学教授
東京⼤学法学部卒業、九州大学大学院法務学府修了。駐日デンマーク大使館上席戦略担当官を経て、現在、経済社会システム総合研究所(IESS)客員研究主幹及び経営倫理実践研究センター(BERC)主任研究員を兼務。専門は政治過程論、コンプライアンス、情報戦略。最近の論考に「伝統文化の「盗用」と文化デューデリジェンス ―広告をはじめとする表現活動において「文化の盗用」非難が惹起される蓋然性を事前精査する基準定立の試み―」(社会構想研究第4巻1号、2022)等がある。
Twitter: @kitajimajun

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

タイ、米関税で最大80億ドルの損失も=政府高官

ビジネス

午前の東京株式市場は小幅続伸、トランプ関税警戒し不

ワールド

ウィスコンシン州判事選、リベラル派が勝利 トランプ

ワールド

プーチン大統領と中国外相が会談、王氏「中ロ関係は拡
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story