コラム

米兵が殺害されても「報復」はこの及び腰...これでバイデン大統領はイランへの抑止力を回復できるのか

2024年02月03日(土)18時43分

安全保障に不可欠な「保険料」を渋るとどうなるか

米誌タイムの「世界で最も影響力のある100人」に選ばれたこともある歴史家のファーガソン上級研究員は「英国は今、帝国の安全保障に不可欠な保険料を支払うのを渋ったことで非常に大きな代償を払っている! これまで帝国を失った主な原因は大方これだった」という1942年2月にアラン・ブルック英軍参謀本部総長が綴った日記の一節を引いている。

当時、難攻不落と言われたシンガポール要塞を旧日本軍はわずか1週間で攻略し、連合国軍の13万人以上が降伏した。ウィンストン・チャーチル英首相は「英国史上最悪の惨事であり、最大の降伏である」と臍を噛んだ。「私たちは現代において、それに匹敵する危機に直面する可能性があるのだろうか?」とファーガソン上級研究員は問いかける。

「ソ連崩壊から始まった比較的平和な戦間期は終わった。歴史上最も古い格言の一つは『平和を望むなら、戦争に備えよ』と説く。チャーチルは、第二次大戦は英国が軍備増強を急いでいれば起きなかったと考えていた。大西洋両岸の政治家は2020年代の地政学が想像以上に1930年代の地政学と共通点が多いという厳しい現実に目覚めつつある」

英国の国防費は国内総生産(GDP)比で1950年代は平均7.9%、60年代は同5.7%、70、80年代は同4.8%。しかし90年代には同3.1%、2000年代に同2.4%、15年に2.01%まで落ち込んだ。北大西洋条約機構(NATO)の30カ国中、ドイツ、フランス、イタリアなど19カ国はGDPの2%目標に達していない。

米国の限界が政治的にも、財政的にも、軍事的にも明らかになった今、「軽武装・経済重視」の日本やドイツを含めた米国の同盟国が国防費を出し惜しみすれば、暗黒の歴史が繰り返される深刻な危険性がある。

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プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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