コラム

女子選手の唇にキス、王妃の肩を抱き、卑猥なポーズも...スペインサッカー連盟会長への怒りと、「逆ギレ」の行方

2023年08月26日(土)19時07分

2019年女子W杯フランス大会で、2大会連続で最多となる4度目の優勝を果たした米国代表のミーガン・ラピノー選手は大会最優秀選手に選ばれたが、人種・性差別的なドナルド・トランプ米大統領(当時)に抗議してサッカー雑誌サイトの動画で「W杯に勝っても、くそったれのホワイトハウスになんか行くもんか」と宣言したことでも注目を集めた。

ルビアレス会長に対する英メディアの批判がピューリタニズムに由来するものか、それとも悲願のW杯初優勝を奪われた腹いせも幾分、含まれているのかは分からない。しかしこれは紛れもなく男女格差をなくすための闘いだ。世界中の少女が胸を熱くして見たW杯初優勝の晴れ舞台で、女性を男性の従属物かのように扱ったルビアレス会長の行為は許されない。

エルモソ選手「ラクダの背中を折る藁」

ケリー選手のスポーツブラが少女たちに与えた勇気と、スペイン女子代表の偉業を貶めたルビアレス会長のマッチョイズム。激戦を戦い終えたスペイン女子代表を待っていたのはラテン系国家に残るジェンダーの壁をぶち破る闘いだ。エルモソ選手はルビアレス会長にキスされたことに同意していないとの声明を出した。

「はっきりさせておきたいのは私がキスを承諾したことは一度もないということだ。私の言葉が疑われるのは許せないし、ましてや私が言ってもいない言葉が捏造されるのも許せない。私は無防備で、暴行の被害者だと感じた。衝動的でマッチョな行為で、場違いであり、私の側からは何の同意もなかった。単純に私は尊重されていなかった」

「この種の事件はここ数年、私たち選手が報告してきた状況の長いリストに加わる。これはラクダの背中を折る藁(我慢の限界)であり、世界中がそれを目の当たりにした」とエルモソ選手は付け加えた。ルビアレス会長は謝罪したが、女子W杯優勝メンバー23人全員を含む81人の男女選手が、会長が辞めるまで代表チームでプレーしないことに署名した。

スペイン女子代表が同国サッカー連盟に反旗を翻すのは最初ではない。昨年の欧州選手権の準々決勝でイングランド代表に敗れた後、女子選手15人が「ホルヘ・ビルダ監督の下ではプレーしない」と連盟に通告した。買い物に出かけた選手たちのバッグをチェックしたり、キャンプの外で誰と会うかを報告するよう求めたりするマネジメントに反発した。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story