コラム

プリゴジン反乱は「ゴッドファーザー的」な幕切れに...プーチンが突入した、より露骨な暗殺の新時代

2023年08月24日(木)19時40分

ISWは「プーチンがロシア軍司令部にプリゴジンの航空機を撃墜するよう命じたのはほぼ間違いない」と断定する。セルゲイ・ショイグ露国防相とヴァレリー・ゲラシモフ軍参謀総長がプーチンの命令なしにプリゴジンを暗殺する可能性は100%ない。「プリゴジンの反乱」が24時間という短命に終わった後、プリゴジンの運命はプーチンの手中に置かれていた。

「プーチンは『復讐は冷めてから食べるのが一番だ』と考えている」と米中央情報局(CIA)のウィリアム・バーンズ長官の予言通り、プーチンはワグネルの資金源と兵員採用ルートを断ち、プリゴジンをワグネルから十分に引き離した。世界中が見守る中、プリゴジンを暗殺してもワグネル残党の怒りを買わないと判断したのだろう。

「ロシアのエリート全体へのシグナル」

英紙フィナンシャル・タイムズは「プリゴジンの最期はロシアのエリート全体へのシグナルだ」と題して「プリゴジンを乗せた航空機が炎に包まれる映像が世界中に拡散する中、プーチンはモスクワから南へ数時間の都市クルスクにある不気味な旧ソ連の戦争記念碑に登場し、兵士たちの『祖国への献身』について語った」と報じている。

プーチンはステージ上で不気味な赤い光に包まれ、笑みを抑えるのがやっとだったという。「プリゴジンはベラルーシとアフリカで過ごした8週間の間に何度かロシアに戻り、クレムリンでプーチンに会ったこともあったが、今となっては『プリゴジンの反乱』の標的にされたプーチンによって実行された手の込んだ復讐の単なる前奏曲だったようだ」(同紙)

国際NPO(非政府組織)「国際危機グループ」のロシア上級アナリスト、オレグ・イグナトフ氏は「『ゴッドファーザー』そのままの幕切れだった」という。ショイグとゲラシモフに嫉妬され、ウクライナ戦争統合軍総司令官から副司令官に降格された「ハルマゲドン将軍」ことセルゲイ・スロビキン上級大将も22日、ロシア国防省によって正式に解任された。

暗殺はKGB(旧ソ連国家保安委員会)出身のプーチンのお家芸だ。06年に元ロシア連邦保安庁(FSB)幹部アレクサンダー・リトビネンコ氏(当時44歳)がロンドンのホテルで紅茶に放射性物質ポロニウム210を入れられ、毒殺された。英国の公聴会は「おそらくプーチン大統領やニコライ・パトルシェフFSB長官が承認していた」と結論付けている。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

訂正-米テキサス州のはしか感染20%増、さらに拡大

ワールド

米民主上院議員、トランプ氏に中国との通商関係など見

ワールド

対ウクライナ支援倍増へ、ロシア追加制裁も 欧州同盟

ワールド

ルペン氏に有罪判決、次期大統領選への出馬困難に 仏
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story