コラム

プーチンの最も手ごわい敵は、実はロシア国内にいる

2022年04月26日(火)20時45分
プーチン

国内では有事に強い指導者を自作自演してきたプーチンだが MIKHAIL KLIMENTYEV-SPUTNIK-KREMLIN-REUTERS

<日本からウクライナ戦争を見ていると分からないが、プーチンにとっては筋書き通り。彼のアキレス腱は別のところにある>

ウクライナ侵攻で大失態を演じているプーチン大統領だが、3月末、プーチンの支持率は83%に跳ね上がり、不支持率は15%に急落した。

2024年の大統領選に勝利して事実上の「終身大統領」に道筋をつけたいプーチンにとっては筋書きどおりの展開だ。

プーチンはチェチェン紛争、グルジア(現ジョージア)戦争、クリミア併合と「有事」に強い指導者を自作自演してきた。

ロシア国内では厳しい情報統制が敷かれ、有権者はウクライナの「非武装化」「非ナチ化」というプロパガンダを信じている。

プーチンの支持基盤は国家主義を信奉する内務省、国防省、情報機関で構成される「シロビキ」、その周りに原油・天然ガスで私腹を肥やすオリガルヒ(新興財閥)、プーチンにへつらうセレブやメディア関係者、その裾野に軍人、公務員、4600万人近い年金生活者がいる。

ウクライナ戦争では強気の構えを崩さない「現代の皇帝」プーチンだが、国内にはアキレス腱がある。それは年金問題だ。

サッカーワールドカップロシア大会の決勝トーナメントで強豪スペインを撃破した熱狂も冷めやらぬ2018年7月、モスクワをはじめ各都市で年金支給年齢の引き上げに反対する大規模集会が開かれた。プーチンの支持率も82%からクリミア併合前と同レベルの60%台に急落した。

野党支持者や労組構成員らは「死ぬまでに年金をもらいたい」という横断幕を掲げた。

プーチンは「自分が大統領の間に年金の支給開始年齢を引き上げることはない」と断言していたが、与党「統一ロシア」は制度の破綻を防ぐため、男性は60歳から65歳に、女性は55歳から63歳に引き上げる改革案を発表。結局、世論の反発で女性の開始年齢を60歳にする緩和措置が取られた。

ロシアの平均寿命は男性68歳、女性78歳。男性の寿命が短い理由はウオッカの飲みすぎだ。

支給開始を65歳に引き上げられると、多くの男性はその年まで生きられない。

新制度へは2018年から2028年までの10年をかけて移行されるが、根本的な制度改革がなければ再び支給年齢を引き上げざるを得ない事態を迎えるだろう。

 2022050310issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2022年5月3日/10日号(4月26日発売)は「(本当に)日本人が知らない世界のニュース50」特集。中国スパイが急増したのはどこ?人類史上最大デモが起こった国は?中国EVの発祥は?――日本で報道されない最新事情50選

【話題の記事】
プーチン病気説の決定打?どう見ても怪しい動画
「アメリカへの核攻撃」を議論しながら、我慢できずに笑いだしたロシア専門家

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story