コラム

仏大統領選を揺さぶる「1千万人」問題と、ルペンを封じる「第三極」の戦術投票

2022年04月22日(金)17時30分

INSEEによると、18年時点で190万人が極貧状態にあり、さらに17万人が極貧に陥る恐れが指摘された。ルーベでメランション氏の得票率が53%にも達したことはこの都市がマクロン改革から完全に取り残されたことを意味する。今回ルペン氏とメランション氏が得票率を伸ばしたこともマクロン氏への期待がしぼみ、不満が膨らんだことを物語る。

ルーベでは廃屋を1ユーロで提供する住宅政策も

「マクロンは富裕減税を進め、燃料税引き上げに端を発した『黄色いベスト運動』では保安機動隊のゴム弾で抗議者が目を負傷した。ルーベにあった工場はバングラデシュやトルコに行き、代わりにサービス産業を育てようとしたが、上手く行かない。ルーベの市長はここでは米ニューヨークの五番街と貧困に喘ぐブロンクスが混在すると自嘲気味に語っている」

220422kmr_mlm03.jpg

ルーベの街で目につく廃屋(筆者撮影)

ピッカーさんはこう話した。かつてフランスで一番貧しい街にランク付けされたルーベの街を歩くと廃屋が目につく。廃屋を1ユーロ(139円)で提供し、住民を増やそうとしたこともある。しかし人通りや商店は少なく、まるでゴーストタウンのように感じられた。「取り残された都市はメランション氏の、地方の小さな町や村はルペン氏の支持者が多い」と言う。

マクロン氏とルペン氏のTV討論は生活、外交、年金、環境、移民政策などをテーマに3時間近くに及んだ。視聴者数は1560万人。1660万人が視聴した17年の大統領選より100万人少ないが、オンラインで見た人は含まれていない。ルペン氏は「マクロン氏は『金融のモーツァルト』と呼ばれながら、経済手腕は非常に悪い」と攻撃した。

ウクライナ戦争に関して、ルペン氏はロシア産原油・天然ガスの制裁は「フランス国民に多大な損害を与える」と疑問を呈した。マクロン氏はルペン氏がロシアのクリミア併合を支持し、ルペン氏の国民連合がプーチン政権に近いロシアの銀行から900万ユーロ(約12億5200万円)の融資を受けていることを改めて指摘した。

「あなたはロシアの力、そしてプーチン氏に依存している」と非難するマクロン氏に、ルペン氏は「融資はモスクワの影響を受けていることを意味しない。私は完全に自由な女性だ」と反論した。欧州連合(EU)離脱に関して「EUを変えたいのであって離脱したいのではない」とルペン氏が言葉を濁すと、マクロン氏は「本心を隠しているだけだ」と追及した。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

北朝鮮の金総書記、核戦争を警告 米が緊張激化と非難

ビジネス

NY外為市場=ドル1年超ぶり高値、ビットコイン10

ビジネス

米、ロシアのガスプロムバンクに新たな制裁 取引禁止

ビジネス

米国株式市場=上昇、ダウ・S&P1週間ぶり高値 エ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story