コラム

フィンランドの36歳女性首相が、独裁者プーチンの恫喝に「ひるまない」わけ

2022年04月19日(火)17時24分
サンナ・マリン首相

フィンランドのサンナ・マリン首相 Paul Wennerholm/TT News Agency/via REUTERS

<ロシアのウクライナ侵攻を受けて、NATO加盟に前進するフィンランドとスウェーデン。両国の危機感と安全保障を、その歴史から紐解く>

[ロンドン発]「いつまでに決断するかというタイムテーブルは示さない。しかし、かなり早く決定される。数カ月ではなく、数週間以内に」──フィンランドのサンナ・マリン首相(36)は13日、ストックホルムで行われたスウェーデンのマグダレナ・アンデション首相(55)との共同記者会見で毅然とした表情を見せ、こう語った。

ロシア軍のウクライナ侵攻を受け、軍事的中立を掲げてきた北欧2カ国の女性首相は北大西洋条約機構(NATO)加盟にそろって意欲を見せた。両国は今年6月にもマドリードで開催されるNATO首脳会議までに加盟申請するとの観測が強まる。中でもロシアと1300キロメートルの国境を接するフィンランドの危機感は国境を接しないスウェーデンより強い。

独裁者ウラジーミル・プーチン露大統領が侵攻に踏み切るまで、マリン氏は「来年初頭に会期が終わる今議会にNATO加盟申請を提出する可能性は否定しないが、極めて低い」と慎重な姿勢を見せていた。しかし共同記者会見では「ロシアがウクライナに侵攻したことですべてが変わった」と自国を取り巻く安全保障環境が一変したことを強調した。

マリン氏は「フィンランド議会議員の幅広いコンセンサスを得ることが重要だ。加盟申請するも申請しないもリスクがある」としながらも「NATOの5条が保証する抑止力と集団防衛の下で安全保障を確保すること以上の方法はない」と言い切った。アンデンション氏も「歴史上極めて重要な時期。2月24日の前後で状況は激変した」と同調した。

NATO加盟支持率は5年前に比べ41ポイントもハネ上がった

フィンランド国営放送、YLEが3月9~11日に実施した世論調査によると、NATO加盟を支持する人は2017年当時より41ポイントも増えて62%、支持しない人はわずか16%に減った。首相や大統領が支持した場合、加盟支持率は74%に、スウェーデンが加盟申請した場合は77%にハネ上がっていた。別の世論調査では41%が夏までに決断すべきと答えた。

フィンランドでは2008年にロシアがジョージア(旧グルジア)に侵攻するまで国民の半数がフィンランドは軍事的脅威に直面していないと感じていた。しかし今、この割合は10人に1人まで下がっている。マリン政権はNATO加盟申請の是非を審議するたたき台として「安全保障環境の変化に関する政府報告書」を議会に提出した。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 7
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story