コラム

「2日で勝利」の見込み外れたプーチン、大苦戦の前線は「防御」に作戦変更

2022年03月25日(金)17時13分

ウクライナに侵攻した同月24日にはこう警鐘を鳴らしている。「戦争の早期終結に惑わされてはいけない。これは始まりだ。モルドバ、コーカサス、バルト三国の計画がある」。「早期終結」とあるのは、プーチン氏が「民間人の犠牲は考慮せずに、ウクライナでの軍事作戦を2日間で成功させること」を指示していたからだ。

「プーチン氏の計算では2月27日に勝利演説を行う予定」だったという。

しかし戦争はプーチン氏の思惑通りには進まない。「国ですらない」とプーチン氏が見下してきたウクライナは歴史に残る戦いを見せ、ナショナル・アイデンティティーを世界中に誇示した。原油・天然ガスをロシアに依存する欧州をアメリカから分断できるとプーチン氏は踏んでいたが、大西洋をまたいで米欧は一致団結した。

プーチン氏が描く3つの出口シナリオ

窮地に立たされたプーチン氏の出口戦略について、「SVRの将軍」は2月28日に早くも言及している。「1つ目は交渉で最低限の成功を確保する。2つ目はより多くの軍隊と武器を動員して作戦を強行する。3つ目は核戦争ですべてを終わらせる。どの選択肢を選ぶかはすぐ分かるだろう」と不吉な言葉を残している。

3月7日には「すでに侵攻11日間、双方で約2万人が犠牲になった戦争はプーチン氏の統合失調症的な思考から来ていることを誰もが理解していることを望む」と投稿している。同月9日にはプーチン氏の側近である億万長者ユーリー・コバルチュク氏が「ウクライナ戦争を一刻でも早く終わらせる」よう進言したとある。

コバルチュク氏は「ミサイル攻撃でウクライナ最大の製造施設や民間インフラの橋や交通機関、鉄道駅、空港を徹底的に破壊し、同国経済を事実上マヒさせるべきだ」と提案したという。戦争からの最短の出口として「プーチン氏は10日、チェルノブイリ原発を攻撃し、ウクライナの指導者に責任を負わせる準備に同意した」(3月11日)とも指摘している。

「自分が存在しなければこの世界は必要ないと考える末期症状のプーチン氏の自殺傾向によって人類は核戦争の破局に瀕している」一方で、ウクライナに親露派の傀儡政権を樹立するという初期の作戦を達成できなかったプーチン氏はいま必死になって泥沼化する戦争の落とし所を見つけようとしている。

3月15日、「SVRの将軍」は「プーチン氏はロシア国民に勝利として提示できる条件でウクライナと協定を結び、一歩後退して二歩前進するため力を蓄える選択肢に傾いている」と指摘している。作戦をウクライナの軍事・民間インフラの徹底破壊に切り換え、協定にウクライナが署名すれば「降伏した」と非ナチ化の成功を宣伝できるという。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ次期米大統領、ウォーシュ氏の財務長官起用を

ビジネス

米ギャップ、売上高見通し引き上げ ホリデー商戦好発

ビジネス

気候変動ファンド、1―9月は240億ドルの純流出=

ワールド

米商務長官指名のラトニック氏、中国との関係がやり玉
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story