コラム

日本が得意とする「メルトダウンしない小型原子炉」の開発で先駆ける世界

2022年02月12日(土)21時44分

Uバッテリーのスレルフォール氏は「先進的な製造方法の単純さ、最短の建設期間、低リスク、生産ラインでの組み立て技術を用いたモジュール式アプローチを利用して経済的な低炭素電力によってイギリスのネットゼロ達成を支援する次世代のAMR技術を製造することだ」と意気込む。

「原子炉はこれまで送電網のための電力を生産する巨大な装置だった。世界中の遠隔地や鉱山、送電網に接続されていない人々のために、もっと小規模な市場向けに電力を生産することを提案したい。脱炭素社会の実現に向け、世界は原子力を必要としており、その規模が小さくても目指すべき市場がある。費用対効果の高い原子炉をつくりたい」

1基当たりの建設費は5千万ポンド(約78億7千万円)、20基が両社の損益分岐点になる。高温ガス炉の運転は完全に自動化され、寿命は30年、調整すればさらに2倍に延長できる。核燃料は約5年ごとに交換する必要がある。ウィットワース氏は「原子力産業にとって今は本当にエキサイティングな時期だ。新しい原子炉がイギリスで設計・建設・運転されるという一世代に一度のチャンスだ」と目を輝かせた。

岸田首相の選択は

英ビジネス・エネルギー・産業戦略省は次世代の原子力に投資するために最大3億8500万ポンド(約606億円)の先進的原子力基金を発表した。この中から小型モジュール式原子炉(SMR)に最大2億1500万ポンド(約338億円)、30年代初頭までにAMRを稼働させる研究開発プログラムに最大1億7千万ポンド(約268億円)を投資する。Uバッテリーは20年に設計・開発資金として1千万ポンド(約15億7千万円)を獲得している。

岸田文雄首相は今年1月の参院本会議で「あらゆる選択肢を活用する考えのもと、日米間の協力も含め、小型炉や高速炉をはじめとする革新原子力の開発などの取り組みを着実に進める」と述べた。日本原子力研究開発機構は英原子力規制局と高温ガス炉の安全性の情報を交換し、Uバッテリーの高温ガス炉の早期商用化に向け協力している。すでに東京電力や原子力規制当局の関係者らがモックアップの見学に訪れている。

ウィットワース氏は「技術的、科学的には安全であることが証明されていても、原子力にはチェルノブイリや福島が残したマイナスの遺産がある。一般市民の理解を得るにはどんな疑問にも丁寧に答えることが不可欠だ」と強調する。岸田首相は福島のトラウマを克服して日本の技術を世界に売り込むためには、言葉を尽くして高温ガス炉の安全性をまず自国民に理解してもらわなければなるまい。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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