コラム

中国外交官がSNSの偽アカウントでプロパガンダを拡散する手法と規模が明らかに

2021年06月25日(金)14時36分

ちなみに後任の鄭沢光駐英大使のツイッターアカウントは今年6月に開設されたばかりでフォロワーは258人にとどまっている。孔鉉佑駐日大使はアカウントすら開設していないものの、駐日中国大使館のフォロワーは8万1900人。日本ではネット世論が中国に厳しく外交官アカウントを使った偽情報パブリック・ディプロマシーは逆効果になる恐れがあるため、有力政治家や官僚、経営者に水面下で近づくアプローチがとられていると筆者はみる。

学生ユーチューバーを高額でリクルートする中国国営メディア

オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)が今年3月に公表した報告書によると、中国共産党は新疆ウイグル自治区の人権弾圧への国際的批判をかわすため、SNSを通じて偽情報を拡散、中国共産党の前向きな取り組みを宣伝する情報キャンペーンを展開している。20年初めから、中国や中国国営メディアによるアメリカ国内のSNS使用が大幅に増加し、新疆ウイグル自治区に関して中国にとって都合の良いストーリーや偽情報がまき散らされていた。

中国国営メディアがアカウントを開設し、キャンペーンを最も有効に展開していたのはフェイスブックだ。フェイスブックは「利用者のプライバシー」を理由に前出のオックスフォード大学の調査にはあまり協力的ではなかったという。

ASPIの調査では、新疆ウイグル自治区の弾圧問題に取り組むウイグル族の犠牲者、ジャーナリスト、研究者と属する組織を批判・中傷する戦術が使われていた。中国政府当局者と中国国営メディアは権威主義体制への共感を示す零細メディアと陰謀家のウェブサイトが作成した偽情報を含むコンテンツを拡散させていた。

世界保健機関(WHO)や国連など国際機関の当局者もそうしたコンテンツをシェアする役割を担っており、西側のメディアエコシステムに偽情報が浸透していた。中国共産党と関係する新疆オーディオ=ビデオ出版社は中国の政策を支持するビデオをつくるマーケティング会社に資金を提供。ビデオは偽アカウント・ネットワークを通じてツイッターやユーチューブに拡散、増幅されていた。

一方、英紙タイムズは、中国共産党に編集管理されているとして放送免許を取り消された中国国営テレビCGTNが英大学のキャンパスを舞台に1万ドル(約110万円)で学生Vloggerをリクルートしていると報じている。トータルで2900万人に視聴されたユーチューバーもいた。「CGTNに参加して」という宣伝ビデオや、「西側メディアのウソ」を非難したり、中国の収容所で人権侵害が発生することを否定したりする動画をつくっているという。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 10
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story