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窮地に立たされる英アストラゼネカ・ワクチンの秘策 日本国内でも9千万回分生産
この間違いが幸いし、1回目に半用量、2回目に全用量を接種すると有効性が90%まで上昇することが偶然分かった。しかしデータはふぞろいになった。英政府が接種者数をとにかく増やすため、1回目と2回目の接種間隔を3週間から12週間にいきなり延ばしたことも、欧米諸国の不信感を増幅させる結果を招いた。英政府のワクチン政策は「見切り発車」と見られてしまったのだ。
しかもチンパンジーのアデノウイルスを「運び屋」として使う生物学的製剤のアストラゼネカ・ワクチンの生産は計算通りには行かないという根本的な難しさを抱えている。EUへの納入量は3月末までに1億回分だったのに実際にできるのはわずか2500万回分。これにファイザーやモデルナのワクチンの納入遅れが加わり、EUは域外へのワクチン輸出を許可制にする緊急措置をとった。
さらにここに来て臨床試験に参加した南アのズウェリ・ムキゼ保健相が「アストラゼネカのワクチンの有効性は南ア変異株に対しては22%に低下する」と発言、同国内での接種を7日に急遽(きゅうきょ)中止した。米ジョンソン・エンド・ジョンソンや米ノババックスなど他のワクチンでは南ア変異株に対しても57~60%の有効性を示している。
これに対し、ギルバート教授は「アストラゼネカのワクチンは重症化、入院、死亡を防ぐという意味ではまだ有効だ。無症状者や軽症者は防げなくても、医療システムの逼迫は回避できる。秋には南ア変異株にも効くワクチンを開発できる」と説明した。しかし南ア変異株に絞った臨床試験はさらに難しさを増すのは避けられまい。
アストラゼネカは今月5日、ワクチンの製造販売承認を日本でも申請した。ワクチンの原液は中堅製薬が受託生産し、1億2千万回分のうち9千万回分以上を日本国内で生産する見通しだ。採算を度外視し、ワクチンの「原価販売」を宣言したオックスフォード大学とアストラゼネカの真価が問われるのはこれからだ。