コラム

窮地に立たされる英アストラゼネカ・ワクチンの秘策 日本国内でも9千万回分生産

2021年02月08日(月)19時28分

アストラゼネカ・ワクチンを準備するイギリスの消防士(2月4日)   Peter Cziborra-REUTERS

<マクロン仏大統領には「65歳以上にはほとんど効果がない」と切り捨てられ、南アフリカでは急遽接種が中止されたワクチンの問題とは>

[ロンドン発]英オックスフォード大学と英製薬大手アストラゼネカが共同で開発・製造する新型コロナウイルスのワクチンが厳しい逆風にさらされている。欧州連合(EU)の欧州医薬品庁(EMA)が18歳以上への緊急使用を承認したにもかかわらず、ドイツやフランスなどEU加盟国が次々と65歳以上への接種を見送った。アメリカは承認すらしていない。

さらに免疫を回避する南アフリカ変異株への有効性が22%に低下することも分かり、南アはアストラゼネカ・ワクチンの接種を中止した。ワクチン開発を指揮するオックスフォード大学ジェンナー研究所のセーラ・ギルバート教授は7日、英BBC放送で「秋までには南ア変異株に効くワクチンを準備できる」と語り、秋に3度目の接種を行う秘策をにおわせたのだが......。

イギリスではワクチン接種が同日時点で1200万人を超え、2月15日までに70歳以上と基礎疾患を持つハイリスクグループ、介護施設職員、医療従事者らへの1回目接種を終える目標に着々と近づいている。これに対してドイツやフランスなどEU加盟国は完全に出遅れた。EUがワクチンの青田買いに失敗したからだ。これにアストラゼネカの納期遅れが加わり、EU加盟国を激怒させてしまった。

エマニュエル・マクロン仏大統領は1月29日、EMAがアストラゼネカ・ワクチンの18歳以上への使用を推奨する数時間前、「現時点で65歳以上にはほとんど効果がない。初期の結果は60~65歳を勇気付けていない」と切り捨てた。独ロベルト・コッホ研究所予防接種常任委員会も65歳未満にのみ接種すべきだと勧告した。

アストラゼネカのワクチンについて65歳未満に限って推奨としたのはフランス、ドイツのほか、オーストリア、スウェーデン、ノルウェー(EU非加盟)、デンマーク、オランダ、スペイン、ポーランド。55歳未満のみ推奨としたのはイタリアとベルギー。スイス(EU非加盟)は承認しなかった(BBCまとめ)。

アストラゼネカ・ワクチンの3つの問題点とは

筆者の見るところ、アストラゼネカのワクチンが抱える問題は3つある。

(1)第3相試験の結果が不十分
(2)大量生産に問題が生じた
(3)免疫を回避する「E484K」の変異を起こした南ア変異株への有効性が低い

オックスフォード大学やアストラゼネカは昨年11月、イギリス、ブラジルの18歳以上2万3千人超(うち発症者131人)が参加した第3相試験の中間結果を発表。1回目の摂取量を半分にして1カ月後に全用量の2回目を接種したグループ(被験者2741人)では90%の有効性を、2回とも全用量を接種したグループ(同8895人)では62%の有効性を示した。平均すると70.4%だった。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシアがウクライナに無人機攻撃、1人死亡 エネ施設

ワールド

中国軍が東シナ海で実弾射撃訓練、空母も参加 台湾に

ビジネス

再送-EQT、日本の不動産部門責任者にKJRM幹部

ビジネス

独プラント・設備受注、2月は前年比+8% 予想外の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story