コラム

秘密のベールに覆われたメーガン妃の男児出産 筆者はこう見る

2019年05月08日(水)09時20分

2人は英王室と英メディアの間で長らく続けられてきた慣例(プロトコル)を破り、家族の絆とプライバシー、そして静かに生むという「女性の権利」を優先した。メーガン妃は「英国民の血税を使って贅沢三昧のわがまま妃」と叩きまくるメディアの報道を「雑音」と一蹴した。

予想もしていなかったヘンリー王子の素朴な記者会見に、人を好きになり、愛し合って家庭を持ち、次世代の新しい生命を誕生させるという当たり前の幸せと人生の素晴らしさを感じなかった人はいないだろう。

しかし、その一方で明らかにされた出生時間に仰天した。英王室の最初の一斉メールから8時間34分も前の午前5時26分に生まれていたのだ。

BBCの王室担当記者はよほど口惜しかったのだろう。現場からの中継で、こうしたやり方は陣痛が始まって入院したら一斉広報し、ロイヤルベビーの誕生はエリザベス女王をはじめ主要王族への連絡が終われば直ちに公にされる慣例から逸脱していると何度も強調した。

生んだ場所もフロッグモア・コテージなのか、病院なのかも分からず、「病院で出産」と誤報を打った英大衆紙もある。今でも、どうやら病院ではないようだという程度しか分からないのだ。

キャサリン妃は「気の毒」?

ソーシャルメディア(SNS)の発達で英王室は既存メディアの独占を避け、SNSを通じて直接、エリザベス女王を元首とする16カ国を含む英連邦53カ国の臣民にメッセージを送るようになった。

それでもキャサリン妃は故ダイアナ元皇太子妃と同じセント・メアリー病院リンド病棟でジョージ王子(5歳)、シャーロット王女(4歳)、ルイ王子(1歳)を出産、退院時にウィリアム王子と一緒に病院の玄関で世界中のメディアのフォトコールに笑顔で応じている。

メーガン妃は、出産した日におめかしをしてハイヒールで退院し、世界中のメディアに笑顔で応えなければならないキャサリン妃を「気の毒」「金魚鉢の金魚のように」感じていると大衆紙は報じている。

「平民」には想像もつかない広大な敷地内にあるフロッグモア・コテージにこもってメーガン妃は「家族の絆」「プライバシー」「女性の権利」を守るのに成功したのは間違いない。あのBBCをして地団駄を踏ませ、主要メディアでさえ「中抜き」される時代を強烈に印象づけた。

2013年の王位継承法改正で、結婚する時に君主の裁可が必要なのは王位継承順位が6位までの王族に限定された。ヘンリー王子とメーガン妃の第一子は7位なのでジョージ王子やシャーロット王女、ルイ王子とは事情が異なる。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

IT大手決算や雇用統計などに注目=今週の米株式市場

ワールド

バンクーバーで祭りの群衆に車突っ込む、複数の死傷者

ワールド

イラン、米国との核協議継続へ 外相「極めて慎重」

ワールド

プーチン氏、ウクライナと前提条件なしで交渉の用意 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口の中」を公開した女性、命を救ったものとは?
  • 4
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 5
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 8
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 6
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 7
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 10
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story