コラム

中国が米国と欧州の間に打ち込んだ5Gという楔 「一帯一路」でも攻勢

2019年03月27日(水)20時01分

欧州委やサイバーセキュリティー庁は5Gネットワークや器機に適用される認可条件の枠組みをつくり、加盟各国に協力を求める方針だ。ジュリアン・キング欧州委員(安全同盟担当)は「私たちの生活をつなぐ5Gの完結性を守る欧州のアプローチを発展させる必要がある」と強調した。

中国製品抜きでは生活できなくなっているのが世界の現実だ。欧州市場における携帯電話ベンダーのシェアは韓国・サムスン34%、米国・アップル28%、中国・ファーウェイ17%、中国・シャオミ5%と中国勢が2割を超える。

世界最大の携帯電話事業会社ボーダフォンは「ファーウェイの5G参入を排除すれば、英国の5G導入が遅れるばかりか、膨大なコストがかかる」と表明。T-モバイルの親会社ドイツテレコムも「ファーウェイ排除は欧州の5G導入を 少なくとも2年遅らせる」と指摘していた。

3G時代は欧州勢がネットワーク器機について世界売り上げの7割前後を占めていた。しかし、4Gになった2017年時点でファーウェイ28%、スウェーデンのエリクソン27%、フィンランドのノキア23%、中興通訊(ZTE)13%、サムスン3%。中国勢は4割を上回っている。

欧州に取り入る中国

米国が唱えるファーウェイ締め出しはもはや現実的ではなくなってきた。距離がある欧州にとって中国は安全保障上の脅威ではなく、共存共栄を図れる経済的パートナーだ。欧州にはエリクソンとノキアがあり、ファーウェイの5Gネットワーク独占を防ぐ手立てもある。

kimurachart190327.jpg

北大西洋条約機構(NATO)の定める国防費の対国内総生産(GDP)比2%目標をないがしろにし、対米貿易黒字を積み上げてきた欧州をトランプ大統領は目の敵にしてきた。方や、中国の歴代首脳はこまめに欧州に足を運び、関係を深めてきた。

EUの中では重債務国のギリシャ、ポルトガル、旧共産圏諸国の計13カ国が米国の懸念をよそに習主席の経済圏構想「一帯一路」を公式に承認、新たにイタリアも加わった。ポルトガルでは昨年12月、5Gを巡って大手通信会社がファーウェイと覚書を交わし、イタリアもファーウェイやZTEの締め出しを否定した。

ハンガリーの政府関係者は筆者の取材に「ボーダフォンやT-モバイルが中国企業の5G参入を認めたら、わが国がそれを排除するのは現実的ではない」と答えた。ハンガリーのオルバン・ビクトル首相は中国と蜜月関係にある。

中国の経済、軍事力の拡大をみると、ファーウェイの5G参入問題は氷山の一角に過ぎない。欧州において、中国は直情径行型のトランプ大統領より巧みに立ち回っている。中国が台湾問題や南シナ海・東シナ海問題で強硬手段をとらない限り、この流れを変えるのは難しい。

※4月2日号(3月26日発売)は「英国の悪夢」特集。EU離脱延期でも希望は見えず......。ハードブレグジット(合意なき離脱)がもたらす経済的損失は予測をはるかに超える。果たしてその規模は? そしてイギリス大迷走の本当の戦犯とは?

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 10
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story