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世界はなぜ「離脱の時代」を迎えたか──英国のEU離脱、揺れるルノー・日産連合、トランプの離脱ドクトリン
英国人女性と結婚して英国籍を取得したフランス人男性で、男児2人を連れ泊まり込みでロイヤルウェディングを見学に来ていた。「2年前のEU国民投票はもちろん離脱に投票したよ。EUからは離脱した方が良いに決っているからさ」
彼いわく、フランスでは毎年、新たな規制が設けられ、10年経つと稠密な岩盤規制が築き上げられている。「起業なんて、できっこない。だから皆、フランスから英国に逃げ出してくる」。是非はともかく、日産がルノー連合の軛(くびき)から逃れたくなる気持ちも分かろうというものだ。
筆者はパリで2025年大阪万博開催決定の取材を済ませて24日にブリュッセル入りしたが、パリのシャンゼリゼ通りではマクロン大統領に抗議して蛍光色のベストを着た反政府デモ隊「イエロージャケット」と警官隊が衝突。催涙ガスが充満し、廃材に火が放たれた。
ディーゼル油への環境税課税とガソリン価格の高騰が抗議デモの発端だ。地球温暖化対策を進めるマクロン大統領の「電気自動車を買えばいい」という発言は今や、最後の絶対君主ルイ16世の王妃マリー・アントワネットの「パンがなければお菓子を食べればいい」という言葉に比せられる。
EU臨時首脳会議でも、支持率が26%まで急落したマクロン大統領の急激なやつれが目立ち、「英国がEUを離脱してもフランスの漁業就業者の利益は守られる」と国益優先を強調した。
自由競争より、規制をパワーの源泉とするEUの法律を作っているのはフランス人だ。その柱は融通の利かない大陸法(成文法)で、英米のコモン・ロー(判例法)とは大きな違いがある。しかしEU離脱にせよ、ルノー・日産連合にせよ、世界はもっと大きな文脈の中で激動している。
アングロサクソンの反撃
その中心にいるのは米国のドナルド・トランプ大統領だ。環太平洋経済連携協定(TPP)、地球温暖化対策の新しい枠組みである「パリ協定」、イラン核合意、国連教育科学文化機関(ユネスコ)、国連人権理事会、米ソ冷戦終結の象徴だった中距離核戦力(INF)全廃条約から離脱した。
ジョージ・W ・ブッシュ米政権下で国家安全保障会議(NSC)や国務省の法律顧問を務めた弁護士ジョン・ベリンジャー氏は「米国の最大の輸出品は離脱ドクトリンだ」と自虐的に解説する。トランプ政権は次に何から離脱するか、シラミ潰しに条約の見直しを進めている。
トランプ大統領が愚かなのか。というより、離脱の背景には米国の地位を奪いつつある中国の存在がある。中国との激烈な競争に勝ち残るため「大陸移動説」級の大きなパラダイムシフトが世界で同時進行しているように筆者の目には映る。
世界は善悪ではなく、地政学の原理に基づいて動き始めた。狼煙を上げたアングロサクソンの反撃に日本はどう対応するのか。判断を誤ると時代の大渦巻にのみ込まれ、敗れ去ってしまう恐れがある。
取材協力: 西川彩奈(にしかわ・あやな)
1988年、大阪生まれ。2014年よりパリを拠点に、欧州社会やインタビュー記事の執筆活動に携わる。ドバイ、ローマに在住したことがあり、中東、欧州の各都市を旅して現地社会への知見を深めている。現在は、パリ政治学院の生徒が運営する難民支援グループに所属し、欧州の難民問題に関する取材プロジェクトも行っている。