コラム

アメリカの世紀は終わった「強いフランス、強い欧州」目指すマクロン仏大統領の中国詣で 人権は後回し

2018年01月10日(水)16時21分

孤立主義、保護主義を掲げ、人種差別主義を漂わせるアメリカのドナルド・トランプ大統領と欧州の相性は最悪だ。「トランプ」と聞くだけで顔をしかめるEUの欧州委員もいるほどだ。ドイツのアンゲラ・メルケル首相もトランプのアメリカやEUを出て行くイギリスに頼るわけにいかなくなり、「私たちの運命を私たちの手に取り戻す準備が必要だ」との考えを明らかにした。

メルケルは昨年9月の総選挙で議会第1党の座を守ったものの議席を大幅に減らし、今なお社会民主党(SPD)と連立交渉中だ。「終わり」が確実に始まったメルケルをあてにできない習近平は、「欧州統合」を掲げて当選したマクロンに狙いを定めている。中国の基本戦略は米日・中・欧の3極構造の中で、欧州との良好な関係を保ち、米日・欧を分断することだ。

自由主義陣営にいずれ取り込めると欧米が高を括っていた中国は1党独裁体制による国家資本主義を確立し、南シナ海や東シナ海で露骨に覇権主義を唱え始めた。習近平が党大会で「21世紀半ばまでに世界一流の軍隊を築きあげる」「海洋強国化を加速させる」と宣言するに及んで、これまで無頓着だった欧州の警戒心は一気にピークに達した。

ドイツは中国を警戒

ドイツは中国資本による独テクノロジー企業の買収に神経を尖らせている。EUの執行機関、欧州委員会も、中国が計画するハンガリー・セルビア間の高速鉄道建設にストップをかけた。しかし中国はすでに重債務国ギリシャのピレウス港の経営権を獲得。李克強首相は中・東欧16カ国と首脳会議(16+1会議)を開催して欧州の切り崩しを図る。

マクロンはニューイヤーズ・イブのTV演説で「2018年はフランスにとって勝負の分かれ目になる年だ」「欧州はフランスにとってプラス。強い欧州なしにフランスの成功はあり得ない」と断言した。中国やアメリカと互角にやっていける欧州を構築するためには、まずEU加盟国が結束することが大切だ。

しかしイギリスはEUを離脱し、「欧州の女帝」メルケルの落日が始まった。EUも債務・難民問題で南北だけでなく、東西にも亀裂が走る。トランプのツイッター外交で溝が深まる欧米をつなぐ役割は、ブレグジットでふらふらのメイには務まらない。先進7カ国(G7)の古株になった安倍晋三首相と新星マクロンの責任はますます重大になってきた。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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