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ベルギーの連続テロで非常事態に入ったテロ主戦場・欧州
パリでエッフェル塔の周囲を警戒するフランス軍兵士(3月30日)Philippe Wojazer-REUTERS
死者32人、負傷者340人を出したベルギーのブリュッセル国際空港と地下鉄マルベーク駅の連続テロは、欧州が「非常事態」に入っている重い現実を私たちに突き付けている。欧州連合(EU)とトルコの難民対策合意(3月18日)を受け、トルコとギリシャの現地取材を終え、29、30日の両日、ブリュッセルに入った。
30日、EU・インド首脳会議に出席したインドの首相モディがマルベーク駅のテロ現場で白い花輪を手向け、約1分の黙祷を捧げた。白バイの隊列がサイレンを鳴り響かせて先導する。道路は閉鎖され、2台の大型バスが狙撃を阻む「壁」を築くまで、モディは車から降りてこなかった。ブリュッセルの地下鉄駅や街中に、自動小銃で武装した治安部隊がテロを警戒して展開している。
ブリュッセルの地下鉄駅でテロ犠牲者に花を手向けるインドのモディ首相 Masato Kimura
治安部隊にカメラを向けると、呼びつけられて身分証明書の提示を求められる。「プレスだ」と説明しても「何のために写真を撮っているんだ」としつこく詰問される。「テロリストの温床」と批判を浴びているブリュッセルのモレンビークを再び訪れたが、昨年11月のパリ同時多発テロ発生直後のような白人社会とイスラム系地域社会の和解を呼びかける温もりはまったく感じられなかった。
【参考記事】ベルギー「テロリストの温床」の街
週末には反イスラムを声高に叫ぶフーリガンがモレンビークに押し寄せた。悲しいことに、西欧とイスラムの溝が広がりつつある。空港手前でバスを降り、タクシーを拾って近くまで行こうと試みた。タクシー運転手は「空港は閉鎖されている。何度、言ったら分かるんだ。近づけない」と声を荒げ、Uターンして急に車のアクセルを踏み込んだ。ブリュッセル全体がギスギスしている。
ブリュッセルの街頭を警戒する治安部隊 Masato Kimura
フランスに続いてベルギーも「非常事態」に入ったと言って良い。パリ同時多発テロでは旧ソ連製自動小銃「カラシニコフ(AK-47)」が使用されたが、今回使われたのは「サタンの母」と呼ばれる殺傷能力の高い爆薬「TATP(過酸化アセトン)」のみだ。過激派組織ISはAK-47と自爆ベストを併用する都市襲撃(ムンバイ)型テロから、2005年のロンドン同時爆破テロ型の自爆テロ戦法に逆戻りした。
シリアやイラクに2万7000人の外国人兵士
パリ同時多発テロ唯一の生き残り、サラ・アブデスラム容疑者(26)が18日にモレンベークで逮捕されるなど、フランスとベルギーのテロ分子への包囲網が次第に狭められ、都市襲撃型テロの実行は難しくなっていたのだろうか。
TATPは殺傷能力が高いものの、マニキュア除光液の主成分アセトン、殺菌剤として使われる過酸化水素水などの市販薬で製造できるため、「台所爆弾」とも呼ばれる。アセトンや過酸化水素水、硫酸、塩酸などを混ぜ合わせれば白い結晶ができる。その粉末に起爆装置として花火用発火装置を装着すれば、強烈な手製爆弾の出来上がりだ。
空港ロビーや地下鉄、劇場、サッカーのスタジアムなど不特定多数の人が集まるソフトターゲットを狙ってTATPを使った自爆テロを実行されると、未然に防ぐのは難しい。しかもシリア内戦が始まってからシリアやイラクに渡航した欧米諸国や中東などの外国人兵士は2万7千人にのぼり、その一部が欧州に回帰し始めている。
【参考記事】「シリア帰り」の若者が欧州を脅かす