加谷珪一が考える『ポスト新産業革命』

「人口減少」×「人工知能」が変える日本──新時代の見取り図「自動車産業編」

2018年03月19日(月)10時50分

自動運転とEV化、そしてシェアリング化は、別々の現象ではない

一方、モーター駆動へのシフトを促す電源については様々な議論があり、なかなかひとつにまとまらなかった。

自動車メーカーは当初、バッテリーで駆動するEVと、水素を用いるFCV(燃料電池車)の二本立ての戦略を立てていたが、構造が簡単で社会的インフラ整備が容易なEVの方が徐々に有力となってきた。

だが、技術的な理由だけでEV化の動きがここまで活発になったわけではない。EV化が進むと、クルマの構造が簡単になり、異業種からの参入が容易になると予想されているが、これをビジネス・チャンスと捉えたIT業界が自動車業界に触手を伸ばしたことでブームが一気に加速した。

自動運転システムで先行しているグーグルは、いうまでもなく最先端のIT企業であり、世界でもっとも影響力の大きい企業のひとつである。EVメーカーであるテスラモーターズのCEOを務めるイーロン・マスク氏はペイパルの創業者であり、同社のバックグラウンドとなっているのはITである。
 
電池に関してほとんど知見のなかったテスラが、自動車用バッテリーの実用化に成功したのは、電源のソフトウェア制御に関する高い技術を持っていたからである。

つまり、AIとそれを利用した自動運転システム、EV関連の技術はすべて同じベクトルを向いている。いうまでもなくシェアリング・エコノミーはIT企業が主導しているものであり、偶然ではあるが、自動車とシェアリング・サービスの親和性も高い。

自動運転技術とITサービスを活用すれば、誰も乗っていない時間帯にステーションに移動して充電するといった動作がいとも簡単に実現してしまう。都市部の利用であれば、航続距離が短いというEVの欠点はかなり克服される。

一連の技術が相互に関連し、これにCO2削減という国際政治の動きが加わったことで、現在の流れが形成された。EV化は単なる流行とは捉えない方がよいだろう。

EV化はゆっくり進むが、その影響は軽視すべきではない

いくらEVシフトが進むといっても、当分の間、ガソリン車がなくなるとは考えにくく、EVの普及も言われているほど急激ではないだろう。しかし自動車産業が日本経済に占める割合は高く、仮に新車販売の5%がEVに置き換わっただけでも、各業界には大きな影響が及ぶ。

筆者は短いタームであっても、EV化がもたらす影響について軽視すべきではないと考えている。長いタームでは、EV化と自動運転化、そしてシェアリング化の流れは、自動車の産業構造を根本から変える可能性を秘めている。

EVの部品点数は内燃機関と比較して少なく、自動車価格は大幅に下がる可能性が高い。これに伴って自動車産業は、現在の垂直統合モデルから徐々に水平統合モデルへのシフトが進むだろう。現在の完成車メーカーは、単純に最終製品を売るだけでは現在の利益水準を維持できなくなる可能性が高い。トヨタやGMといったトップ・メーカーでも決して安泰ではないはずだ。

【第1回】新時代の見取り図「金融機関編」
【第2回】新時代の見取り図「小売編」


『ポスト新産業革命 「人口減少」×「AI」が変える経済と仕事の教科書』
 加谷珪一 著
 CCCメディアハウス

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