コラム

コメ不足が、「一時的」でも「偶発的」な問題でもない理由...背後にある「マクロ的な要因」を探る

2024年09月27日(金)17時02分
令和のコメ問題は一時的な問題ではない

©SANKEI

<コメ不足の背景には、天候や需要の急拡大といった一時的な要因だけでなく、日本人にとってコメがもはや高級品になりつつあるなどの大きな変化もあった>

今年の夏以降、コメ不足が顕著となっており、一時は小売店の棚から商品が消えるという事態にまで発展した。政府は天候不順やインバウンドの増加による需要拡大が原因であり、新米の出荷が始まれば品薄は解消されると説明していたが、新米の出荷が始まっても品薄は改善せず、商品が棚に並んでも価格が大幅に高くなるなど、市場の混乱が続いている。

近年、コメに限らず多くの食品が品薄になったり、価格が高騰するケースが相次いでいるが、こうした現象が発生するたびに、一時的な要因なので消費者は冷静に対応する必要があるといった指摘が行われる。

だが一時的、偶発的要因で多くの商品が次々と品薄になったり、価格が高騰することはあり得ない。こうした現象の背後には、ほぼ確実にマクロ的な要因が存在していると考えるべきだ。


コメについていえば、天候不順によって生産が減ったことや、インバウンドの増加で外国人向け消費が拡大したのは事実である。だがそれだけの理由で、スーパーの棚から商品が消えたり、新米価格が1.3~1.5倍に急騰するのは不自然である。

コメ不足と価格高騰の最大の理由は、日本人がコメを食べなくなり、市場が縮小して価格変動(ボラティリティー)が拡大したことである。

現代の日本人にとって、もはやコメは高級品に

コメの需給や価格について政府が厳密に管理する食糧管理制度(いわゆる食管制度)は1995年に廃止されたものの、引き続き政府はコメの需給や価格について一定の管理を行っている。

需要が減るなかで生産量を維持すれば値崩れするので、政府は生産量を調整する減反を実施してきた。制度としての減反も2017年度に終わっているが、補助金などを通じて生産量を調整する仕組みは現在も存続しており、コメの生産量は年々減っている。

経済学的に見ると、規模が縮小する市場では、生産量や需要にごくわずかな変化が生じただけでも商品価格が激しく上下変動する(ボラティリティーが高くなる)。備蓄米を放出しないなど政府の運用に問題はあるが、日本人がコメを食べなくなっている以上、市場が小さくなるのは当然であり、単価を上げなければ農家も経営を維持できない。

コメを食べなくなったのは嗜好の変化だけでなく、経済的要因も無視できない。コメを小売店で購入し、自宅でといでおいしく炊き上げるには、相応の手間と設備が必要であり、生活に追われる低所得層はこうした生活を享受することが難しくなっている。

つまり、おいしいご飯を炊くには一定以上の経済力が必要であり、今の日本においてコメはもはや高級品となりつつあるのが実情だ。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

黒海合意、ロシアの利益と世界の食糧安保のため=外相

ビジネス

米食品大手クローガーとアルバートソンズ、合併破談巡

ワールド

ロシア・ウクライナ、黒海・エネ停戦で合意 ロ「制裁

ビジネス

トルコ財務相と中銀総裁、市場安定化に全力注ぐと外国
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取締役会はマスクCEOを辞めさせろ」
  • 4
    「トランプが変えた世界」を30年前に描いていた...あ…
  • 5
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 6
    トランプ批判で入国拒否も?...米空港で広がる「スマ…
  • 7
    「悪循環」中国の飲食店に大倒産時代が到来...デフレ…
  • 8
    【クイズ】アメリカで「ネズミが大量発生している」…
  • 9
    老化を遅らせる食事法...細胞を大掃除する「断続的フ…
  • 10
    【クイズ】トランプ大統領の出身大学は?
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 5
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「レアアース」の生産量が多…
  • 10
    古代ギリシャの沈没船から発見された世界最古の「コ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story